ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

大腸菌体内で不活性型として生産される超好熱アーキア由来リコンビナント酵素の機能・構造解析3.大腸菌体内で不活性型として生産される超好熱菌酵素のその他の例図6α-キモトリプシン処理を行ったPis-GDHのSDS-PAGEパターン.(SDS-PAGE patterns after restricteddigestion of inactive and active Pis-GDHs usingα-chymotrypsin.)右側に各バンドのN末端アミノ酸配列を示している.図7Pis-GDH分子内でのPhe172の位置.(Localpositionof Phe172 within the Pis-GDH molecule.)(a)六量体および(b)単量体構造でのPhe172の位置.Phe172は赤丸で示している.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.の解析から不活性型酵素は172位のフェニルアラニンと173位のスレオニンの間で切断されることがわかった.このことは,不活性型酵素では172位のフェニルアラニンが表面に露出し,プロテアーゼによって切断されやすい環境下にあり,熱活性化によって分子内部に取り込まれることを示している.Pis-GDHは2つのドメインから構成されているが,172位のフェニルアラニンはサブユニット間の相互作用に関与しているドメイン1に位置している(図7).このこともドメイン間の相互作用が不活性型と活性型で異なり,酵素活性に影響を与えていることを示唆している.これらのことから,Pis-GDHの熱活性化のプロセスは以下のとおりまとめることができる.1)不活性型酵素はよりルーズで不安定なサブユニットのアレンジメント構造から成り立っており,熱によってよりコンパクトで安定な構造に変化する.2)この活性化において表面に存在している疎水性残基が内部のサブユニット間の界面に移動し,サブユニット間に存在する疎水性相互作用を促進する.本酵素の酵素活性発現には,タンパク質の四次構造のリアレンジメントが必要である.日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)超好熱菌由来の酵素は,大腸菌リコンビナント酵素において,Pis-GDHのように活性型とは構造が明らかに異なるタンパク質として生産されることがしばしば見受けられる.しかし,われわれがよく経験する不活性型酵素の生産は,すべてこれと類似した要因が関係しているのであろうか?最近われわれは,これまでの報告とはまったく異なるメカニズムで不活性型タンパク質が生産される可能性を見出したので,最後に紹介したい.3.1超好熱菌由来ホモセリン脱水素酵素必須アミノ酸であるリシン,スレオニン,メチオニン,イソロイシンは微生物や植物にのみ存在する代謝経路よって,アスパラギン酸から生合成される(アスパラギン酸経路).この経路では,アスパラギン酸はまずアスパラギン酸キナーゼによりβ-アスパルチルリン酸(β-AP)にリン酸化される.次いで第2段階のアスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素が,β-APをアスパラギン酸セミアルデヒド(Asa)に変換する.Asaは数段階の反応を経てリシンとなるか,またはホモセリン脱水素酵素(HseDH)が触媒する反応でホモセリンに変換される.このホモセリンはスレオニンおよびメチオニン合成の前駆体であり,さらにスレオニンの代謝によりイソロイシンが合成される.この経路の3番目の反応を触媒するHseDHは,上記必須アミノ酸の生合成を調節する鍵酵素の1つとして重要な役割をもつ.特にスレオニンによるHseDHのフィードバック活性調節は,細菌,酵母,植物で詳細に研究されている.またHseDHはヒトには存在しないため,新規抗菌剤設計のための分子標的としても注目される.HseDHの構造情報は不足しており,これまで酵母Saccharomyces cerevisiaeと高度好熱菌Thermus thermophiles由来の酵素しか報告例がなかった.超好熱菌由来のHseDHについては,その構造だけでなく活性調節メカニズムも不明である.われわれは,超好熱アーキアPc.horikoshiiに見出したHseDH(ORF ID:PH1075)について機能・構造解析を行い,その特徴を明らかにした.3.2超好熱菌由来HseDHの特徴Pc. horikoshii HseDHは,既知のHseDHとは異なる以下の特徴を有していた.15)1)結晶作製中に補酵素を添加していないにもかかわらず,NADPHが補酵素結合部位に結合していた.2)本酵素はNADPを補酵素として利用せず,NAD特異的であった.既知のHseDHはNADP特異的であるかまたはNAD/NADP両方を補酵素とする.3)NAD依存性ホモセリン酸化反応に対してNADPが非常に強力な阻害剤となる.結晶作製時に補酵素を添加していないことから,構造中に見出されたNADPHは宿主大腸菌由来の分子が強固219