ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

郷田秀一郎,櫻庭春彦,大島敏久表1種々の超好熱菌由来の大腸菌リコンビナントGDHの活性,および四次構造と活性化に伴う変化.(Structuraland catalytic features of recombinant GDHs fromseveral hyperthermophiles.)超好熱菌四次構造特徴Pc. furiosus不活性型(単量体)多量体化による活性化+活性型(六量体)Tc. kodakaraensis不活性型(単量体)部分的に活性化+不活性型(六量体)Pc. horikoshii不活性型(単量体)多量体化および構造変化+不活性型(六量体)Pb. islandicum不活性型(六量体)不活性単量体は生産されずものほど高い活性は示していない.4),5)このことは,この酵素の完全な活性化にはほかの因子が必要であることを示している.ほかにもPc. horikoshii由来のグルタミン酸脱水素酵素でもリコンビナント酵素として生産されると酵素活性が低い状態で得られることが報告されている.6)著者らの研究室では,1998年に内陸性超好熱菌であるPyrobaculum islandicumよりNAD特異的グルタミン酸脱水素酵素(Pis-GDH)を見出し,7)大腸菌を宿主に用いた発現系を構築した.その結果,Pis-GDHは,これまで報告されてきたグルタミン酸脱水素酵素とは異なり,天然由来のものと同様に四次構造(六量体)を形成するものの著しく低い活性しか示さず(不活性型酵素),加熱によって四次構造の変化が見られないものの,酵素活性が上昇し,活性化型酵素となることを見出した.8)種々の超好熱菌由来のリコンビナントGDHの活性,および四次構造と活性化に伴う変化は表1にまとめた.そこで,Pis-GDHの不活性型酵素としての生産と,その活性化における構造変化の解析を行った.2.Pis-GDHのリコンビナント酵素としての生産とその活性化における構造変化2.1リコンビナントPis-GDHの生産リコンビナントPis-GDHの生産は,ベクターにpET-11a,宿主である大腸菌はBL21(DE3)-CodonPlus-RILを用いて行った.大腸菌の培養は37℃で行い,1 mM IPTGを培地中に加えることによって発現を誘導し,引き続き3時間培養した.得られた大腸菌は超音波破砕によって破壊し,粗酵素溶液を調製した.粗酵素溶液は色素結合,陰イオン交換,疎水性,ゲルろ過の四種のカラムクロマトグラフィーのステップによってSDS-PAGEで単一のバンドを示すまで精製した.不活性型酵素の精製は熱による活性化を防ぐために4℃で行った.精製された酵素の活性を測定したところ,ほとんど活性は見られなかった.2.2熱および尿素溶液中でのリコンビナントPis-GDHの活性化一般的に好熱菌・超好熱菌由来酵素をリコンビナントタンパク質として大腸菌を宿主に用いて生産した場合,天然由来酵素と同等の熱安定性,至適pH,高温での至適活性を示す.これらのことから,好熱菌・超好熱菌由来タンパク質は本来の生育温度よりも非常に低い温度である大腸菌の生育温度でも正しい立体構造を形成すると考えられている.一方,前章で言及したとおり,いくつかの超好熱菌由来のグルタミン酸脱水素酵素では,大腸菌体内では本来の菌とは異なる構造で生産され,著しく低い活性しか示さないことが報告されている(表1).しかしながら,加熱によって天然由来酵素と同等の活性を有するまで活性化されるものが多い.そこで,はじめに加熱によるPis-GDHの酵素活性の変化を測定した.その結果,種々の温度で10分間インキュベート後に酵素活性を測定したところ,90℃で加熱したときに最も高い活性を示した.また,90℃でインキュベートした場合,酵素活性は継時的に増加し15分間後に最大に達した.さらに,著者らは加熱以外の処理によっても酵素活性が上昇することを見出した.天然由来のPis-GDHが尿素溶液中で高い活性を示すことから,不活性型酵素を尿素溶液中でインキュベートしたところ活性化が見られ,37℃,5 M尿素溶液中で5時間処理したものは天然由来のものと同等の比活性を示すまでに活性化された(尿素活性化型Pis-GDH).この結果は,加熱処理以外での不活性型リコンビナント酵素の活性化条件を初めて見出したものである.これまでグルタミン酸脱水素酵素以外にも,D-グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素,9)インドールピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ,10)シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ,11)イオウオキシゲナーゼ/レダクターゼ12)で加熱による構造変化が報告されているが,立体構造変化の機構に関する情報は少なく,特に酵素の構造に関するものはきわめて少ない.そこで,著者らはPis-GDHの不活性型から活性型への活性化に伴う立体構造変化について解析を行った.2.3リコンビナントPis-GDHの活性化における立体構造変化加熱によって活性化した活性型酵素はX線結晶構造解析によって立体構造を解明し,サブユニット間に存在する疎水性相互作用が高い耐熱性に寄与していることを報告している.13)しかし,不活性型酵素の結晶は得ることができず,その立体構造は不明である.そこで,不活性型の構造に関する情報はX線小角散乱(SAXS)法によって解析を行った.タンパク質溶液のSAXS測定では,主に3つのパラメータを得ることができる.それは,分子の大きさの指標となる平均ギニエ半径(Rg,z),分子の最大長(Dmax),とクラツキープロットからの四次構造変化である(表2および図1).SAXS測定は高エネルギー加速器研究機構BL-10Cで行った.平均ギニエ半径(Rg,z)は,SAXS測定によって得られた散乱曲線より作製され216日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)