ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

ページ
13/52

このページは 日本結晶学会誌Vol58No5 の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No5

日本結晶学会誌58,215-220(2016)最近の研究から大腸菌体内で不活性型として生産される超好熱アーキア由来リコンビナント酵素の機能・構造解析長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻郷田秀一郎香川大学農学部応用生物科学科櫻庭春彦大阪工業大学工学部生命工学科大島敏久Shuichiro GODA, Haruhiko SAKURABA and Toshihisa OHSHIMA: Functional andStructural Analyses of the Inactive Recombinant Enzymes from HyperthermophilicArchaea Produced in Escherichia coliSeveral enzymes containing glutamate dehydrogenase from hyperthermophiles have beenreported to be expressed as inactive forms in a mesophile Escherichia coli. We have recently foundthat the recombinant Pyrobaculum islandicum glutamate dehydrogenase(Pis-GDH)expressed inE. coli hardly exhibits the activity, and that the heat treatment dramatically activated the inactiveenzyme to the activity level comparable to that of the native enzyme. This review focuses mainly onthe structural changes of the Pis-GDH in heat activation measured by small-angle X-ray scattering,differential scanning calorimetry, circular dichroism, and fluorescence spectrum in the presenceof 8-anilinonaphthalene-1-sulfonate. In addition, we describe the hyperthermophilic homoserinedehydrogenase showing unique coenzyme preference as other type of the inactive recombinantenzyme. This may be informative for the better production of active recombinant enzymes fromhyperthermophiles.1.リコンビナントタンパク質として生産されると不活性型酵素として生産される超好熱菌由来グルタミン酸脱水素酵素1.1好熱菌・超好熱菌由来酵素の利用酵素は高い基質特異性と触媒効率をもつことから,バイオテクノロジーの多くの分野できわめて有用な物質として利用されている.これまでに6000種類以上の酵素が,多くの生物およびその組織から発見されているものの,その実用的な利用は,酵素を大量に調製するときにかかるコストの高さなどから限定されたものとなっている.1970年代の終わりごろまでは,特に生産量の少なさと,酵素の不安定性が大量調製の大きな問題となっていた.そのため,遺伝子工学を利用して,高温環境域に生息する微生物である好熱菌・超好熱菌由来の酵素を,大腸菌を用いたリコンビナント酵素として生産することは,その両方の点を補うことが期待できる.1)これらのことから,著者らは,好熱菌・超好熱菌由来酵素の大腸菌を宿主に用いた生産を行い,機能と構造解析と応用面の開発を進めている.1.2超好熱菌由来グルタミン酸脱水素酵素グルタミン酸脱水素酵素(GDH)はクエン酸回路の中間体である2-オキソグルタル酸からグルタミン酸を還元日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)的アミノ化によって生成する反応を可逆的に触媒する酵素であり,エネルギー生産とアミノ酸代謝反応をつなぐ重要な役割を果たしている.その重要性から多くの生物由来のGDHが見出されており,その酵素機能や構造に関する知見がきわめて多く報告されている.2)GDHは,その反応で補酵素にNADを用いるもの,NADPを用いるもの,またはその両方を用いるものが知られている.1995年にRobbらは超好熱菌Pyrococcus furiosus由来グルタミン酸脱水素酵素がリコンビナント酵素として生産されると活性が著しく低い状態で得られることを報告した.3)生産された酵素を精製した結果,得られた酵素は不活性な単量体と活性を有する六量体の混合物であることが判明した.天然のPc. furiosus由来グルタミン酸脱水素酵素は六量体を形成する.一方,不活性な単量体は加熱することによって六量体を形成し,天然由来と同等の比活性を有するまで活性化された.このことより,超好熱菌の本酵素は本来の菌の生育環境と異なる常温菌の大腸菌体内で生産されると不活性な四次構造をとり,熱により活性な構造に変化することが示された.その後,同様に熱によって活性化される超好熱菌由来の六量体形成グルタミン酸脱水素酵素の報告がThermococcus kodakaraensis由来でなされたが,この酵素は加熱によって酵素活性が上昇するものの,天然由来の215