ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

久木一朗はC 60が1分子ずつで隔離配列された状態である.一方,T18-C 60-2では,DMF分子がPhTモチーフのカルボキシル基に水素結合することによって包接空間の状態が変化し,void IIに2分子のC 60が包接された状態で結晶化している.この最も近接した2分子の中心間距離は11.2 Aであるのに対し,2番目に近接した分子どうしの中心間距離は15.1 Aである.つまり本系は,隔離された2分子のC 60が規則的な周期で配列した三次元構造とみなすことができ,有限個の分子からなる分子クラスターの配列制御という観点から興味深い.C 60の次元制御された集合体には,例えばナノチューブ内に一次元に配列させたものや,界面で二次元状に配列されたものがあるが,ケンブリッジ結晶構造データベース(CSD)を調べると,C 60の結晶において最も多いのは1分子単位で隔離された系である.一方,2分子単位で隔離された結晶は2015年時点では7つの構造が登録されているが,本系のように構造が明確なネットワーク構造を用いて配列が達成された例はない.本系のような水素結合性のネットワーク構造は,機能性分子を特異配列させるための足場・プラットフォームとして利用できることを示している.4.おわりに非共有結合により多孔性構造体を構築する際,所望の多孔質構造とは異なる無孔性の構造を与える場合が多い.本稿では4,4’-ジカルボキシ-o-ターフェニル基が形成する水素結合モチーフ(PhTモチーフ)を鍵構造に用いることによって,3回対称性のパイ共役分子が二次元状ヘキサゴナル構造に連結された低密度シート構造の造形と,そのシートが相互貫入することなく積層した多孔性層状構造体の構築とについて述べた.本構造体は,吸着材および機能性分子の配列プラットフォームとして展開できる.また,4,4’-ジカルボキシ-o-ターフェニル基は,ほかのネットワークトポロジーをもった多孔質層状構造を与えることも見出しつつあり,今後,新しい水素結合性多孔質構造体への展開が期待できる.謝辞本研究は,以下の方々との共同研究により行ったものであり,ご指導ご協力いただいたことに深く感謝申し上げる.宮田幹二教授,藤内准教授(大阪大学),生越友樹教授(金沢大),河東田道夫博士(理研),佐藤寛泰博士(リガク).また研究を遂行された学生諸君にも感謝する.本研究は科研費若手研究(A)(24685026),基盤研究(C)(T15K04591)および新学術研究「パイ造形科学」(15H00998)の助成のもとに行った.本稿の結晶解析データの一部はSPring-8利用実験課題(2014B1976,2014B1168,2015A1174,2015A1193,2015B1685,2015B1397,2015B1130)において収集したものである.文献1)A. G. Slater and A. I. Cooper: Science 348, 988(2015).2)M. Li, D. Li, M. O’Keeffe and O. M. Yaghi: Chem. Rev. 114, 1343(2014).3)(a)X. Feng, X. Ding and D. Jiang: Chem. Soc. Rev. 41, 6010(2012);(b)S. -Y. Ding and W. Wang: Chem. Soc. Rev. 42, 548(2013);(c)P. J. Waller, F. Gandara and O. M. Yaghi: Acc. Chem.Res. 48, 3053(2015).4)(a)T. Tozawa, J. T. A. Jones, S. I. Swamy, S. Jiang, D. J. Adams,S. Shakespeare, R. Clowes, D. Bradshaw, T. Hasell, S. Y. Chong,C. Tang, S. Thompson, J. Parker, A. Trewin, J. Bacsa, A. M. Z.Slawin, A. Steiner and A. I. Cooper: Nat. Mater. 8, 973(2009);(b)M. Mastalerz: Chem. Eur. J. 18, 10082(2012);(c)J. Tian, P. K.Thallapally and B. P. McGrail: CrystEngComm 14, 1909(2012).5)J. Lu and R. Cao: Angew. Chem. Int. Ed. 55, 9474(2016).6)G. R. Desiraju: Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 34, 2311(1995).7)O. Ivasenko and D. F. Perepichka: Chem. Soc. Rev. 40, 191(2011).8)D. J. Duchamp and R. Marsh: Acta Crystallogr., Sect. B 25, 5(1969).9)F. H. Herbstein, M. Kapon and G. M. Reisner: J. Inclusion Phenom.5, 211(1987).10)E. Weber, M. Hecker, E. Koepp, W. Orlia, M. Czugler and I.Csoregh: J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1251(1988).11)C. A. Zentner, H. W. H. Lai, J. T. Greenfield, R. A. Wiscons,M. Zeller, C. F. Campana, O. Talu, S. A. FitzGerald and J. L. C.Rowsell: Chem.Commun. 51, 11642(1988);(b)H. W. H. Lai, R.A. Wiscons, C. A. Zentner, M. Zeller and J. L. C. Rowsell: Cryst.Growth Des. 16, 821(2016).12)K. Kobayashi, T. Shirasaka, E. Horn and N. Furukawa: TetrahedronLett. 41, 89(2000).13)I. Hisaki, S. Nakagawa, N. Tohnai and M. Miyata: Angew. Chem.Int. Ed. 54, 3008(2015).14)(a)I. Hisaki, N. Manabe, K. Osaka, A. Saeki, S. Seki, N. Tohnai andM. Miyata: Bull. Chem. Soc. Jpn. 87, 323(2014);(b)I. Hisaki,K. Osaka, N. Ikenaka, A. Saeki, N. Tohnai, S. Seki and M. Miyata:Cryst. Growth Des. 16, 714(2016);(c)I. Hisaki, H. Senga, Y.Sakamoto, S. Tuzuki, N. Tohnai and M. Miyata: Chem. Eur. J. 15,13336(2009).15)I. Hisaki, S. Nakagawa, N. Ikenaka, Y. Imamura, M. Katouda, M.Tashiro, H. Tsuchida, T. Ogoshi, H. Sato, N. Tohnai and M. Miyata:J. Am. Chem. Soc. 138, 6617(2016).16)I. Hisaki, N. Ikenaka, N. Tohnai and M. Miyata: Chem.Commun. 52,300(2016).17)I. Hisaki, S. Nakagawa, H. Sato and N. Tohnai: Chem.Commun. 52,9781(2016).プロフィール久木一朗Ichiro Hisaki大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻Department of Material and Life Science, GraduateSchool of Engineering, Osaka University〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-12-1 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japane-mail: hisaki@mls.eng.osaka-u.ac.jp最終学歴:大阪大学大学院基礎工学研究科専門分野:超分子化学,構造有機化学,結晶工学現在の研究テーマ:機能性結晶材料の開発趣味:ツーリング,観察214日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)