ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No5

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概要

日本結晶学会誌Vol58No5

久木一朗脱離することがわかった.さらに脱溶媒過程における結晶構造変化の情報を得るために,結晶バルクを加熱しながら粉末X線回折(PXRD)実験を行った(図5).いずれの結晶でも,母液から濾別したばかりの結晶バルクは非常に弱い回折パターンしか示さなかった.これは包接空間内でディスオーダーしている溶媒分子(1,2,4-トリクロロベンゼンなど)の影響が大きい.加熱によって徐々にピークが現れ,Tp-2DsとT18-1については中間構造を経由して,200度以上ではすべての結晶のPXRDパターンの変化が収束した.これはTGAの結果と対応している.いずれの結晶も脱溶媒和後のPXRDパターンは元の結晶構造から計算されるパターンとは異なる.このことは脱溶媒により構造が変化したことを意味する.T18-1とEx-1のそれは強度が弱いため,かなりのアモルファルスが含まれると予想される.一方Tp-2DsとT12-1では鮮明なパターンを示しており,高い結晶性が維持されていることがわかる.この傾向は,溶媒交換法により活性化した場合でも同様であった.そこで,Tp-2DsとT12-1の活性化で得られたTp-apoとT12-apoの構造同定・推定を行った.まずTp-apoのPXRDパターンを用いて粉末構造解析を試みたが,残念ながら妥当な構造を得ることができなかった.そこで計算化学的手法によって予測した結晶構造のPXRDパターンを実測のパターンと比較する「結晶構造予測法」によって構造を推測した(図6).Tp-1結晶と同様の配座をもったTpの分子モデルを使って,P-1の空間群に属する結晶について検討した.具体的には,モンテカルロ法で結晶構造を発生させ,力場計算によってパッキングを最適化させた5502個の結晶構造のPXRDパターンを実測のパターンと比較して,最もよく一致する候補構造を選んだ(図6aの矢印).その候補構造をさらにDFT法(vdW-DF2 level)によって最適化し,最終候補構造Tp-apoを得た.Tp-apoのPXRDパターンは実測のそれとよく対応している.興味深いことに,Tp-apoはTp-1と同様にH-HexNetシート積層構造を維持している.しかし脱溶媒によって上下のH-HexNet層がずれ,8.5 Aの空孔径を有する一次元状のチャネルが形成されている.このときの空孔率は33%である.一方,T12-apoの結晶構造はPXRDパターンを用いた粉末構造解析によって同定した.図7にリートベルト最適化の結果を示す.T12-apoもH-HexNetシート積層構造を維持している.脱溶媒によって上下のH-HexNetシート間の重なりがより大きくなるようにずれ,8.8 Aの空孔径を有する一次元状チャネルが形成されている.このときの空孔率は38%である.図6結晶構造予測によるTp-apoの候補構造.(Candidatestructure of Tp-apo obtained by crystal structureprediction method.)(a)発生させた結晶構造の密度-格子エネルギープロット,(b)候補構造と実測のPXRDの比較,(c)Tp-apo候補構造,(d)空間の断面図.図5加熱によるLA-H-HexNetのPXRDパターンの変化.(PXRD pattern changes of LA-H-HexNet upon heating.)図7粉末X線解析によるT12-apo構造の同定.(Structuraldetermination of T12-apo by X-ray powder analysis.)(a)リートベルト最適化の結果,(b)Tp-apo候補構造,(d)空間の断面図.212日本結晶学会誌第58巻第5号(2016)