ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

2 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)日本結晶学会誌 58,2-6(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~1.はじめに金属錯体は多彩な機能性を示す物質群であり,その固体物性に関する研究がきわめて盛んに行われてきた.一方,これらの機能性固体を「液化」できたならば,多彩な機能性液体が実現できるのではないだろうか? こうした問題意識が,本稿で取り上げる「金属錯体のイオン液体化」というテーマの根底にある.近年,機能性液体としてイオン液体が脚光を浴びている.1)イオン液体の多くは,イミダゾリウムカチオンなどの有機カチオンに対して,適当なアニオンを組み合わせた塩である.構成イオン間にクーロン力が働くため,通常の分子性液体とは異なり,難揮発性,難燃性,広い温度範囲で液体状態を保つ,などの特徴がある.有機溶媒や水に対して特徴ある相溶性を示し,分離・リサイクル性に優れた溶媒となる.イオン電導性を示す液体としても有用である.イオン液体という物質群の存在は,普通は高融点であるはずの塩を低融点化して,液化できることを示している.著者らはこの点に着目し,以下に述べるように,同じ物質設計によって金属錯体の塩を液体化できることを見出した.この手法で生成する金属錯体系イオン液体は,イオン液体としての特性と,金属錯体由来の優れた機能性を併せもつ,新しい機能材料である.これらは液体の研究ではあるが,X線構造解析が重要な役割を果たす場合がある.本稿では,有機金属系イオン液体の物質設計について述べたあと,構造解析が関係した研究例をいくつか紹介する.2.有機金属錯体のイオン液体化有機金属錯体の代表物質は,サンドイッチ型構造をもつフェロセン([Fe(C5H5)2])である.フェロセンやその類縁体のカチオンに対して種々の平面π 共役系アニオンを組み合わせた電荷移動塩(図1a)は,磁性・電導性・相転移など興味ある固体物性を示す.著者らはもともと固体の研究者であり,以前はこれらの物性研究を行っていた.その過程で,多くの物質は高温ではそのまま分解するが,一部は融解を起こすことを見出した.このことが契機となり,これらの塩をさらに低融点化できれば,種々の機能性液体が実現できると着想した.2)典型的なイオン液体は,電荷分散が大きく,運動自由度の高い有機カチオンと,分子間力の小さいフッ素系アニオンの組み合わせで構成されている.一方,フェロセンは分子形状が立体的で,電荷分散が大きい.かつ結晶中でも分子運動性が高く,フェロセン誘導体自体が比較的低融点である.したがって,この骨格はイオン液体化に有利と考えた.そこで通常のイオン液体同様,フェロセンのカチオンにアルキル基を導入し,かつ(SO2CF3)2N-(以下,Tf2Nと略記)などのフッ素系アニオンと組み合わせた(図1b).その結果,次節に述べるように,この分子設計によって,普遍的にイオン液体が得られることがわかった.3.有機金属系イオン液体の合成エチル基以上の長さのアルキル基を導入したフェロユニークな機能性をもつ有機金属系イオン液体の開発神戸大学大学院理学研究科化学専攻 持田智行Tomoyuki MOCHIDA: Functional Ionic Liquids from Organometallic Complexes -Crystallographic AspectsWe have prepared various ionic liquids containing cationic organometallic complexes, whichexhibit intriguing physical properties and chemical reactivities. This review describes moleculardesign, preparation, and crystal structures of organometallic ionic liquids and related materials. Twotopics are discussed, in which X-ray crystallography played an important role: magnetic-field effectson the crystallization of ferrocenium ionic liquids, and odd-even effects on the melting phenomenonof cobaltocenium ionic liquids.図1 (a)フェロセン系電荷移動塩,および(b)フェロセン系イオン液体の例.(Examples of(a)chargetransfersalts and(b)ionic liquids containingferrocenium cations.)