ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

1特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~日本結晶学会誌 58,1(2016)日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)ユニークな分子の凝集構造~不均一性・階層性・多形性の立場から~特集号担当:阿部 洋,関根あき子,杉山和正Hiroshi ABE, Akiko SEKINE and Kazumasa SUGIYAMA: Fascinating MolecularAggregations ~ Heterogeneity, Hierarchy and Polymorphs ~イオン液体は,常温で液体となる不思議な溶融塩である.熱的安定性・化学的安定性・電気化学的安定性および非常に低い蒸気圧などの特性を利用し,グリーンケミストリ(分離・回収技術)や電気化学分野(リチウムイオンバッテリ,燃料電池,色素増感太陽電池)など盛んに応用されていることは本会の読者にとって周知の事実である.最近では,新機能材料としての金属錯体の液体化などの新たな潮流が生まれている.そして,今般関連研究が急速に発展してきた経緯の中で,結晶学に基づく分子間相互作用(電荷ネットワーク・分子の配向秩序・配位数)の議論が,イオン液体の静的および動的構造や結晶多形などの多様な特性の理解を深め,さらに最近では,本会の読者にとってなじみの深い小角散乱実験などを通じて,液体中に存在する『ナノ不均一性や階層性』に関しても理解が進んでいる.また,イオン液体の複雑な挙動を理解するためには第一原理計算と分子動力学法を用いた解析も必要不可欠である.イオン液体に限らず分子性液体の不思議な挙動は以前から報告されているが,水の高密度アモルファスの発見を発端とする『第2臨界点』の壮大な議論が今もなお継続されていることなどを鑑みると,本特集号に紹介するシンプルな系で多自由度のアモルファスの本質を探るスタイルの研究志向はきわめて自然な流れであると考えられる.そしてその研究成果は,イオン液体あるいは分子性液体の理解にとどまらず,安定なクラスター構造や複数のクラスター構造が安定性や機械的性質の発現メカニズムを担っていると考えられる非晶質金属,セラミックスや高分子の研究の進展を予想させる.また,一見まったく関係のないようなアモルファスとタンパク質ではあるが,イオン液体という調味料を加えると意外な共通点が見え,水溶液中のタンパク質の多自由度と多機能性の理解を進める重要な発展が期待できる.本年度は,無機材料やタンパク質を研究されている先生方にも興味をもっていただくことを念頭に入れて,今般大きく発展をしている分子ランダム系に的を絞った特集号を企画した.この特集号を契機に,イオン液体を介在とした異分野の融合と新たな展開を期待している.最後に,お忙しい中,快く原稿をご執筆いただきました先生方に,担当者一同厚くお礼申し上げます.