ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

55クリスタリット日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)る.β=1 の時L(τ)はδ関数となり単一の緩和時間しかもたないが(デバイ型緩和),β≠1ではL(τ)は広がった形になり,β が小さいほど分布は広くなる.平均の緩和時間(L(τ)のピーク位置に対応)は<τ>=τ/β・Γ(1/β)と定義される(Γはガンマ関数).伸長指数関数は液体や高分子などさまざまな系の緩和挙動をよく記述するが,βの物理的意味は自明ではない.空間不均一性がある場合や,ガラスのα緩和のように協同的運動している場合に,伸長指数関数で記述されることが議論されている.(東京大学物性研究所 古府麻衣子)Water Pocket水分子のナノスケールの“閉じ込め”は固体を用いて行われてきた.固体中の“閉じ込め”と区別するために,液体中の水の“閉じ込め”をwater pocketと定義した.液体中の“閉じ込め”なので,water pocket はやわらかく柔軟にパックされていて,ある寿命をもって生成・消滅していると考えられる.この動的なナノ不均一性は新たなナノ工学のプラットフォームとして期待される.(防衛大機能材料 阿部 洋)バルク水Bulk Waterバルク水は通常の水で自由水とも呼ばれる.これに対し,生体膜などに水和している水は凍らないので不凍水と呼ばれている.近年,自由水と不凍水の中間的な水素結合している中間水が発見された.3種類の水の水素結合強度は違うので,それぞれの液体構造(配位数,分子相関)は異なると考えられている.(防衛大機能材料 阿部 洋)ポリアモルフィズムPolyamorphismポリアモルフィズムとは,単一組成の液体やガラスのような凝集体に2 つ以上の異なる乱れた状態が存在する現象.この時,乱れた状態間の転移は一次であり,2つの状態の中間状態は存在しない.一般的に結晶系で用いられるポリモルフィズム(多型)と区別し,無秩序系のポリモルフィズムを表すために造られた言葉.これまでに,水,シリコン,燐,Al2O3Y2O3,亜リン酸トリフエニルなどがポリアモルフィズムを示す物質として報告されている.特に水のポリアモルフィズムは精力的に研究されており,水には幾何学的に分子配置の異なる2つのガラス状態(低密度アモルファス氷(low-density amorphous ice:LDA)と高密度アモルファス氷(high-density amorphous ice:HDA))が存在し,LDAとHDAは圧力や温度の変化に対して不連続に転移することが知られている.異なる2つのガラス状態の水の存在とそれらの転移の不連続性は,ガラス転移温度以上で2つの液体状態(低密度水(low-densityliquid:LDL)と高密度水(high-density liquid:HDL))が存在することと,その2つの液体に関係する液-液体転移(liquid-liquid transition:LLT)と液-液臨界点(liquidliquidcritical point:LLCP)の存在の可能性を暗示している.1) O. Mishima and H. E. Stanley: Nature 396, 329(1998).(物質・材料研究機構 鈴木芳治)液-液臨界点Liquid-Liquid Critical Point:LLCP物質に複数の液体状態が存在する時,それらの液体の平衡な共存線上で液体間の状態の差(例えば密度差)が消滅する点,つまり液-液転移線の端点を液-液臨界点(LLCP)と呼ぶ.特に,Pooleらにより水のLLCPの存在が示唆されてから,水のLLCPの議論が活発に行われている.水には低温に2つの液体状態(低密度水(low-densityliquid:LDL)と高密度水(high-density liquid:HDL))が存在し,LDLとHDLに関係したLLCPが存在すると考えられている.水の気-液臨界点と区別するために,LLCPを水の第2臨界点と呼ぶこともある.水の計算機実験ではLLCPの存在が示されているが,実際の実験では液体の急激な結晶化のためにLLCPの存在の実証は難しい.ただし,アモルファス氷や過冷却水に関する多くの実験結果は,間接的ではあるが,LLCPの存在を強く支持している.水にLLCPが存在することを仮定したとき,LLCP近傍での2つの液体状態(LDLとHDL)の揺らぎの影響が低温・低圧の水の奇妙な振る舞い(例えば,4℃での密度極大,等温圧縮率や比熱の増大,氷Ihへの結晶化など)や水溶液の機能などに関係している可能性が,指摘されている.1) P. H. Poole, F. Sciortino, U. Essmann and H. E Staley: Nature 360,324(1992).(物質・材料研究機構 鈴木芳治)第二臨界現象Liquid-Liquid Critical Phenomena一般に液相と気相の熱力学的状態を区別できる量は密度だけである.温度や圧力などの熱力学変数を変化させることによって液相と気相間の相転移を誘起できる.密度は定性的な量ではなく,定量量である.したがって,この量的な差がなくなるところで両相は熱力学的に区別ができなくなる.この点が気-液相境界線の端点となり,臨界点と呼ばれる.この点付近で比熱や圧縮率が非常に大きくなり,臨界点にて発散するように振る舞う.こうした異常現象を総称して臨界現象と呼ぶ.これらの発散の様子は臨界点まわりのべき関数として記述され,発散の度合は,その指数で特徴づけられる.発散物理量に対