ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

概要

日本結晶学会誌Vol58No1

54 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号（2016）クリスタリットサンドイッチ錯体Sandwich Complexサンドイッチ錯体とは，π共役系をもつ環状分子（アレーン環など）2 個によって金属原子が挟まれた，サンドイッチ状構造をもつ有機金属化合物のことを指す．代表物質は，鉄に対してシクロペンタジエニル環が2枚配位したフェロセン［Fe（C5H5）2］である．［M（C5H5）2］の化学式で表される錯体をメタロセンと総称し，その誘導体も多数存在する．シクロペンタジエニル環以外の各種のアレーン環が配位したサンドイッチ錯体も多数知られる．中心金属にアレーン環が1個配位し，残りの配位座はアレーン環以外の配位子で占められる錯体は，ハーフサンドイッチ錯体と呼ばれる．これらの錯体は化学反応性に富み，触媒として有用な錯体もある．サンドイッチ錯体には各種の多核錯体も存在する．（神戸大学大学院理学研究科化学専攻　持田智行）イオン液体Ionic Liquidイオン液体とは，室温付近で液体状態を示す塩の総称である．室温イオン液体，あるいは常温溶融塩とも呼ばれる．厳密な定義には議論が残るが，融点が100℃以下の塩という定義が一般的には受け入れられているようである．NaClのような，通常の無機塩とは異なり，カチオン，アニオンともに，大きく，複雑，かつ非対称なイオンから構成されることが多い．その結果，カチオン－アニオン間の相互作用の低下や，液体状態でのエントロピーの上昇を引き起こし，塩でありながら，室温付近で液体となる．100％イオンで構成されるため，分子性液体とはその性質が大きく異なる．例えば，（実験的には）不揮発性・不燃性，熱的・化学的・電気化学的に安定，ユニークな溶解能などである．グリーン溶媒とも呼ばれる一方で，分子構造のコントロール（＝物性のコントロール）が容易な点から，デザイナー溶媒という側面ももっている．（金沢大学理工研究域　遠藤太佳嗣）イミダゾリウム塩Imidazolium Saltイミダゾリウム塩は，イミダゾール環を有するカチオンからなる塩の総称である．イオン液体は，基本的には有機カチオンと無機アニオンから構成されており，カチオンとしてはイミダゾリウム以外にも，ピリジニウム，ピペリジニウム，ピロリジニウムなどの4 級アンモニウムカチオン（NR4＋）や，フォスフォニウム（PR4＋），スルフォニウム（SR3＋）なども知られている．その中でも，イミダゾリウムカチオンは，イオン液体のカチオンとして最も代表的なものと言ってよく，論文の報告数もほかのカチオンと比べてかなり多い．これは，正電荷がイミダゾリウム環に非局在化しており，アニオンとの相互作用が低下する傾向にあることが主因と考えられる．すなわち，適当なアニオンと組み合わせた時に，融点や粘度が低いイオン液体が得られやすい．（金沢大学理工研究域　遠藤太佳嗣）ガラス転移Glass Transitionガラス転移とは液体が低温で流動性を失い固化する現象である．熱容量や熱膨張率のような自由エネルギーの二次微分量に不連続を生じるため，過去には二次相転移と考えられていたこともあったが，現在では凍結現象と考えられている．冷却速度によりガラス転移温度（Tg）は変化するが，実効的には液体の構造緩和時間が100 s，粘度が1012 Pa・sになる温度をTgとすることが多い．Tg付近では，構造緩和時間や粘度はTgより少し低い温度に向かって発散的に増大する．このことから，ガラス転移を単なる凍結現象ではなく，物理的に意味がある特異温度（理想ガラス転移温度）で起こる動的転移であると考える研究者も多い．これまでにAdam-Gibbs理論，自由体積理論，モード結合理論，ランダム一次転移理論などさまざまな統計力学理論が提案されているが，いまだガラス転移の機構を完全に説明できる理論は存在しない．現代物理学に残された大問題の1つとして，多くの研究者に興味をもたれている．（東京大学物性研究所　山室　修）伸長指数関数Stretched Exponential Function伸長指数関数は（f t）＝ex［p －（t/τ）β］で表される関数であり，緩和挙動を記述するのにしばしば用いられる．この関数はKohlrausch-Williams-Watts（KWW）関数とも呼ばれている．τは緩和時間，β（0 ＜β ≦1）は非指数関数性パラメータと呼ばれている．伸長指数関数を指数関数の和として捉えると，緩和時間の分布関数L（τ）が定義でき