ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 49構造不規則系の中距離秩序:空隙と圧力依存性元素(重元素)の構造をとるとみなせる11)ので,液体ヒ素の常圧付近のプレピークは,液体リンの高圧相のプレピークに対応すると考えられる.この小さいプレピークの起源については,正四面体状の分子は残存していないことが知られている5), 9), 12), 13)ので,正四面体分子の重心間の相関ではない.しかし,正四面体として閉じてはいないが,1つのヒ素原子はほかの3つの原子と共有結合しており,それを基本構造としたある種のネットワークを形成している.この基本構造の相関がプレピークの起源とする第一原理シミュレーションの結果がある.9)単体において,FSDPが綺麗に観測されるのがリンだけであるのは,下記の理由によると考えられる.まず,単体の場合は原子が1種類しかないため,FSDPが生じるには中距離の密度ゆらぎ(濃度ゆらぎでなく)が必要である.液体硫黄や液体セレンは,酸素と同族なので結合手を2つもつが,その構造は,硫黄ならS8つまり八員環分子が代表的であるし,セレンなら鎖状につながった分子性液体である.しかし,結合角や二面角に自由度があり,14)正四面体のように特定の形を取りにくいため,シャープなピークを生じにくいのではないだろうか.つまり,単体では,リンの正四面体のような,中距離秩序程度には大きい,特定の形のユニットを構成する例がほかにないためではないかと思われる.3.SiO2 ガラスの中距離秩序上述のように,単体でFSDPが見られることはほとんどないが,二元系なら,FSDPが観測できる系は多い.例えば代表的なところでは,SiO2 ガラスには,およそ1.5 A-1にFSDPが観測される(図1).このFSDPは,2100℃の液体SiO2においても観測される.15)一方で,液体シリコンと液体酸素の第1ピークは,どちらも,およそ2 A-1以上に観測される16)-19)ので,SiとOが混ざることで特有の中距離秩序を生じ,それがS(Q)の1.5 A-1にシャープな第1 ピークを生じさせていると考えられる.SiO2ガラスのFSDPの起源には諸説あるが,最近では図3 のような周期的構造が起源と解釈される実験結果がある.2)いずれにせよ,図3 に示した「空隙」部分が本稿の主役である.なお,空隙は,FSDPの直接の起源ではないとされている2), 20)が,SiO2ガラスに関する限り,空隙が存在することと,空隙とFSDPとの間に関係があることは確実である.SiO2ガラスの場合,融点の高さや安定性から,シリコンと酸素の比率を細かく変化させて測定することは難しいが,例えばSiと同族のGeと,Oと同族のSe の,両者の比率を変化させて,一連の溶融体のS(Q)を測定すると,ちょうどSiO2と同じ比率,つまりGeSe2の時のFSDP(1 A-1付近)が一番大きい.21)また,GeS2 のFSDPはより顕著である.21)単体,二元系を含めて,どの物質なら,回折の第1ピークをFSDPと呼ぶのかについては,さまざまな定義がある.1), 3), 22)-24)例えばFSDPの位置(波数)に,最近接原子間の距離を掛けることでスケールして分類する研究もある.1)4.FSDP の圧力依存性液体ヒ素のプレピークは,圧力を加えると消滅することを先に述べたが,周期表でヒ素の両隣のGeとSe(モル比1:1)で構成される液体GeSeにもプレピークがみられ,25)圧力を加えると,プレピークは消滅する.8)SiO2 ガラスにおいては,圧力によってFSDPの高さが低くなることが知られている.26)また,SiO2 と同族の仲間といえる液体GeSe2 についても,プレピークが圧力で消滅する.27)以上のように,FSDPは圧力で消滅あるいは低下することがよくある.このような,加圧で顕著に低下するFSDP図2 リンの(a)低圧液体相と(b)高圧液体相の構造因子S(Q).文献4)を基に作成.(Structure factorS(Q)of(a)high-pressure and(b)low-pressure liquidphases of phosphorus.Data taken from Ref.4.)図3 SiO2ガラスの構造の概念図.黒丸がSi原子,白丸がO原子を表す.黒い破線がFSDPの起源とされる周期性を表す.文献2)の図7を基に作成.(Aschematic of SiO2 glass structure. The black circlesrepresent Si atoms and open circles represent O atoms.This figure is based on Fig.7 of Ref.2.)