ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

48 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)日本結晶学会誌 58,48-53(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~構造不規則系の中距離秩序:空隙と圧力依存性慶應義塾大学 理工学部 千葉文野京都大学大学院工学研究科 竹中幹人Ayano CHIBA and Mikihito TAKENAKA: Intermediate-Range Order in StructurallyDisordered Systems: Voids and Pressure DependenceThe first sharp diffraction peak(FSDP)reflects the intermediate-range order in disorderedsystems. Here we start from the FSDP in elemental liquid, liquid phosphorus, and we glancesimilarities between the pressure dependence of the FSDP in SiO2 glass and that in a polymer[isotactic poly(4-methyl-1-pentene)]in its melted state. These FSDP are related to voids. In contrast,some first peaks in polymers are related to nanophase separation.1.はじめに液体やアモルファスなど構造不規則系には,短距離の秩序はあるが,結晶のような長距離の秩序はない.不規則系における一番長距離の秩序は,X線などの回折測定では一番低角のピークとして観察されるであろう.つまり,Qを波数として,構造因子S(Q)の第1ピーク(最低角のピーク)が,直感的に,その系の一番長距離の秩序を反映するであろう.本稿で取り上げる中距離秩序とは,特にSiO2ガラスで有名だが,S(Q)において,低波数に観測されるピーク(図1)に対応する秩序のことである.このピークを,First Sharp Diffraction Peak(FSDP)と呼ぶ.FSDPには,シャープという言葉が入っているので,シャープでない場合も含めてプレピークと呼ぶ場合もある.一方で,FSDPとプレピークを区別すべきという研究者もいる.1)本稿では,慣習に従って,高くてシャープなピークはFSDP,小さいピークの場合はプレピークと呼ぶことにする.いずれにせよ,このピークが意味する相関は,液体やアモルファスにみられる通常の短距離秩序(=最近接原子間距離の程度)よりも少し長い距離の秩序を表すという意味で,中距離秩序と呼ばれる.具体的には,5 ~ 20 A程度の構造を指す,と書いている文献もある.3)本稿では,まず単体,次にSiO2 ガラスの場合の中距離秩序について簡単に紹介する.そして,このようなFSDPが,最近筆者らが研究している溶融高分子のS(Q)の第1ピークの振る舞いと類似していることについて,紹介したい.FSDPの起源は,空隙の存在(密度ゆらぎ)と,相分離傾向(濃度ゆらぎ)の2 種類に分類することができる.両者の混合である場合もある.本稿では主として空隙の場合を紹介し,相分離傾向については最後に簡単に触れる.2.単体の中距離秩序FSDPを示す単体液体は,筆者の知る限り液体リンだけである.(注1)リンの溶融体には2 種類の構造がある.図2のように,低圧では4 つのリン原子で構成される分子性液体,(注2)高圧ではネットワーク状につながった構造の液体が安定となり,両者の間で圧力誘起相転移する.4)両相の代表的な構造因子S(Q)を図2 に示す.FSDPがみられるのは,低圧相である.このFSDPの起源は,正四面体状の分子の重心間の相関といわれている.5), 6)高圧相においてもFSDPのなごりのような小さいピークが観測されている(図2b).これは,次に述べる液体ヒ素のプレピークと同一の起源をもつと考えられる.液体ヒ素には,1 ~ 1.4 A-1付近にプレピークが知られている.1), 7)このプレピークは,圧力を加えると高さが低くなり,やがて消滅する.8), 9)同族で比較すると,周期表において上の元素(軽元素)は,圧力を加えると下の(注1) ただしこれは,FSDPの定義によるので,いくつかの単体の第1 ピークをFSDPに分類可能とする場合もある.1)(注2) 液体-液体転移が発見されたような高温は,低圧液体相の臨界点より高温側にあるため,液体と呼ばず流体と呼ぶべきかもしれない.10)図1 SiO2ガラスの構造因子S(Q)とFSDP.文献2)を基に作成.(Structure factor S(Q)of SiO2 glass andFSDP. Data taken from Ref.2.)