ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

46 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)渕崎員弘あると考えることもできるであろう.CP-IIの構造が未決定であることを良いことに,この線に沿って夢を膨らませることが可能である.固体が融解した場合,特に高密度下では,融解後も固体構造の特徴が局所的に残存すると考えるのは自然であろう.例えば,CP-I 中の最近接分子対はLiq-II のtype-1配向として残存する.こうした局所的分子配向状態に擬スピンをアサインすると配向秩序をPotts模型で記述できる.そうするとLiq-Iの安定固相では異なるタイプの擬スピンの秩序状態だと考えることができる.これら擬Pottsスピンの混晶系の(配向秩序の)融解はPatashinski-Son模型18),19)を基に議論できる.Liq-II とLiq-I に対する安定結晶の配向状態数はまったく任意に,それぞれ,4(低対称)と48(高対称)にとり,擬正則溶体模型で仮定した三重点と臨界圧力を用いると臨界温度として970 K が再び得られるのである! でき上がる状態図は図3 に示した擬正則二溶体模型の結果とほとんど変わらない.計算の詳細を含め,文献17)を参照されたい.まとめると,第二臨界点の存在を仮定すればヨウ化錫系の構造変化に関する知見は矛盾なく簡潔に理解でき,擬正則二溶体模型,Patashinski-Son模型,ともにほぼ同等な状態図を与えることができる.得られた状態図(図3)が水のそれ(図1)に酷似していることに注意されたい.ヨウ化錫系では第二臨界圧力値を仮定したが,この仮定が各状態の存在域を説明するために必須であったことを考慮すると,その位置推測は妥当である.その臨界域に現実的に足を踏み入れることが可能である点が水系との決定的な差である!3.4 密度測定前節では両液体の局所構造の変化に言及した.各液体を相と呼ぶには秩序変数である密度が異なる値で特徴づけられる必要がある.不定形である液体の密度測定は,とりわけ極限条件下において,決してトリヴィアルな問題ではない.われわれは単色放射光X線吸収測定から両液体の密度を推定した.高圧下での放射光X線その場吸収測定からの密度推定は完全に確立した方法ではなかったので,0.42 GPa下でCP-Iが融解する際の密度変化の測定を試み,4.65 g/ccから4.10 g/ccへのわずか0.55 g/ccの変化が有意に検出できることを明らかにした.20)CP-I内では同時に回折実験を行い,格子定数から求まる密度値と誤差範囲内で一致することを確認できた.この技術を使って融解曲線屈曲点付近で屈曲点より低圧側と高圧側の液体密度測定を行った.本質的に重要な結果を抽出して図5 にまとめた.圧力値と温度値には試料内の圧力勾配と温度勾配の誤差があり,本実験の場合,それぞれ,~ 0.05 GPa と~ 30 K と見積もっている.図5a とbの状況は融解曲線屈曲点のすぐ低圧側と高圧側を示していると考えていただきたい.屈曲点のすぐ低圧側では融解に際して~ 5.0 g/ccから~ 4.6 g/ccの約0.4 g/ccのドロップが認められるのに対し,すぐ高圧側では融解しても~ 4.9 g/ccの密度値に変化が見られない(図(a),(b)において固相内での密度が若干不一致である理由については検討中である).これらの密度変化は屈曲点の両側での融解曲線の傾きの変化とまったく矛盾しない.このことからLiq-II はLiq-I は転移点付近で0.4 g/cc くらい異なる相であると結論できる.Liq-II がLDL,Liq-I がHDLである.さて,Liq-II とLiq-I が不連続転移境界で隔たれていることを示す必要がある.すなわち,この境界をLiq-II 側からまたいだ時,~ 0.4 g/ccの密度の跳びを観測しなければならない.これに関しては近々朗報を伝えられると考えている.3.5 水型ポリアモルフィズム前2 節で述べたことからポリアモルフィズムに関してヨウ化錫が水と類似した特徴を備えていることを理解していただけたはずである.それでは,冒頭に述べた水のポリアモルフィズムを説明する第二臨界点シナリオ2)を600 800 10004.64.85from absorptionfrom diffractiontemperature (K)density (g/cc)600 800 10004.64.85from absorptionfrom diffractiontemperature (K)density (g/cc)(a) (b)図5 融解時の密度の変化.(The variations in densities upon melting.)(a)1.6 GPa で融解した場合.(b)1.7 GPa で融解した場合.□:X線吸収実験からの推定,×:X線回折実験からの推定,破線:融点.