ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

ページ
51/74

このページは 日本結晶学会誌Vol58No1 の電子ブックに掲載されている51ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 45ヨウ化錫系に期待される第二臨界現象接分子間距離が推定できる.実験で得られるG(r)との一致の良さから,この距離は実際の最近接分子間距離に近いはずである.そこで,最近接分子間がtype-1およびtype-2配向をとった場合の最近接分子間のI-I距離を,このSn-Sn距離をもとに推定し,それぞれ,▽および▼で示した.注目すべきはtype-2配向をとった場合,分子内I-I距離以内に別の分子のIが近づける点である.すなわち,最も短距離の分子間I-I 長3.83 Aが分子内I-I 長より短くなる.G(r)の第二ピークの低r側の非対称な広がりは,この分子間I-I相関からの寄与であると結論してよいであろう.さて,3.4 GPa下では事態は一変する.S(k)の高波数成分の形状は低圧側のそれとは定性的に異なり(図4a上段),もはや式(1)で表せない.対応するG(r)(図4b上段)も低圧側での様相とは一変する.低r側で2本のピークはもつものの,その位置はもはや縦破線上にはない.分子内I-I間距離は4.33 Aよりは確実に縮み,加圧したにもかかわらず,分子内Sn-I間距離は常圧の長さより伸びている! この驚くべき事実は分子がもはや正四面体形状を有していないことを示している.さらに驚くべきことに,分子内I-I間に相当する長さ3.82 Aは0.4 GPa 下でtype-2 配向した最近接分子のI-I 間距離にきわめて近い.ところで,I2が金属化する際の最近接I-I間距離は3.10 Aである14)が,最初に伝導をもつのは前者に直交するI-I 間で,その距離は3.6 Aである.14)高圧結晶相CP-II(図2)の構造は解かれていないが,それに至る直前で最近接分子間I-I 距離が3.6 Aになっていることから,CP-IIは金属相であると予想されている.8)3.4 GPa下での最近接I-I 間長は,この長さ3.6 Aに近い.G(r)の第二ピーク幅は0.4 GPa 下でのそれよりは狭く,このことから3.4 GPa下ではすでに分子内,分子間の区別がなく,単にI-I 間距離の分布を表していると考えられる.つまり,3.4 GPa 下では高分子化が起こっており,I-I 間は金属結合に近い,単一の長さで特徴づけられると結論できそうである.こう考えると,固体内でのtype-1 配向が融解により容易に分子反転できてtype-2 配向になれる意義は大きい.反転が許されない固体では金属結合距離内にI 同士を近づけるために7 GPa 必要であるが,type-2 であれば2 GPa未満でその距離内に近づけられるということである.こうした一連の結果が得られた後,驚嘆すべきことがわかった.図4bで示した低圧・高圧液体のG(r)は,ほぼ定量的にAm-II とAm-IのG(r)15)に一致するのである! この事実から,それぞれの液相を低圧液相Liq-IIと高圧液相Liq-I と名付けた.Liq-II とLiq-I は,それぞれAm-II とAm-Iが融解したものにほかならない.これらの液体構造の差は,その局所構造の相違となって現れる.図4aに示したS(k)からわかるとおり,Liq-II のS(k)で8 A-1付近に現れるピークがLiq-I では低波数側にシフトしたように見える.加圧に反して「伸びる」ような局所変化は単純には説明できない.実空間での変化を明確にすることは今後の研究課題の1 つである.これらの局所構造の特徴を基に融点直上の液体構造を調べたところ,融解曲線の屈曲点より低圧側でLiq-II が,高圧側でLiq-Iが観測された(図3).本節で述べたことは局所構造を異にする液体が存在するということである.にもかかわらず,すでに液「相」と呼んでいる.この理由は3.4節で明らかになる.3.3 ヨウ化錫系のポリアモルフィズム以上述べたことですでに「役者」は揃った.本節では,これらの相(状態)の熱力学関係について述べる.これらの状態間の関係を最も自然に説明できるのは,やはり,第二臨界点シナリオではないかと考え,擬正則二溶体模型16)の構築を試みた.12)この模型において重要なパラメータは二溶体の混合エネルギーとエントロピーの比である.ヨウ化錫に関しては熱力学的特性に関する情報がきわめて乏しい.逆に言えば,現段階ではわれわれが見出した各状態の存在領域に矛盾しない範囲で熱力学特性を自由に選択可能である.そこで,まずは温度-圧力相図内でLiq-II (Am-II)/Liq-I (Am-I)間境界線の傾きが負になるような比の値の範囲内で模型のパラメータ値の探索を始めた.模型に含まれるすべてのパラメータ値を決めるためにはさらに具体的な仮定が必要となる.そこで,融解曲線の屈曲点(930 K,1.52 GPa)がCP-I/Liq-II/Liq-I相の三重点であると仮定した.この仮定の妥当性に関しては後に述べる.また,第二臨界点が正圧側に存在すると仮定し,その臨界圧力を0.5 GPaであると置いてみた.これらの仮定と2節で紹介したAm-IIとAm-Iの安定限界が,それぞれ,7 GPaと3 GPaであるという事実から模型に含まれるすべてのパラメータ値を決めることが可能となる.詳しくは文献12)を参照されたい.1120 K が臨界点温度として得られた.このときの状態図が同文献内の図1 である.ところが,後の実験で上記仮定とは矛盾する重要な発見があった.Liq-II相内で昇温しながら構造を観察したところ,1.0 GPa,950 K と1.26 GPa,1050 K の点を結んだ経路上でLiq-I を見出せなかった.17)先のパラメータ値を基にした状態図では,この経路はLiq-II/Liq-I境界を横切ることになってしまう.すなわち,第二臨界点が存在するとしたら,それはこの経路より高圧側にないといけない.そこで,臨界点圧力を1.3 GPaに再設定し,再計算した状態図 16)が図3である.臨界点温度は970 Kである.17)擬正則二溶体模型はLiq-II とLiq-Iを,それぞれAm-IIとAm-Iの安定液相であると関係づける.それでは両非晶質状態の安定固相があるのであろうか? 例えば,Am-IIとAm-Iに対する安定固相が,それぞれ,CP-I とCP-II で