ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

44 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)渕崎員弘フラットになる.これはすなわち,約1.5 GPa以上では融解前後で密度変化が小さく,屈曲点圧力より低圧側の液体とは異なる密度を有する液体の存在を示唆する.1.5 GPaより低圧側の液体を徐冷した場合,CP-Iの有するPa3 対称性をほぼ回復するのに対し,高圧側液体を徐冷した場合,同対称性では説明できない回折線が多く現れること9)からも高圧液体の存在可能性が期待された.3.2 低圧液体と高圧液体そこで,屈曲点圧力より低圧側と高圧側の液体構造の直接観察に挑んだ.この成功には克服しなければならない問題があった.前節で述べた融解実験では融解後の液体試料を保持する必要がなかったが,構造観察には液体を長時間安定に保持できる容器が必要となる.ヨウ化物はきわめて化学反応性に富む物質である.高温下でこの傾向は助長される.ヨウ化錫と化学反応を起こさず,X線に対して透明で,かつ,高圧実験に耐えられる試料容器として,試行錯誤の結果,ダイヤモンドにたどり着いた.まず常圧でのヨウ化錫液体の構造10)を明確にした上でダイヤモンド容器を用いた高圧下での放射光X線その場観察から液体の局所構造変化の有無を探った.その際,試料圧力を正確に見積もるために,試料容器内をダイヤモンドディスクの可動ピストンで仕切り,その両側に試料と圧力マーカーであるNaClを配置する方法を確立した.11)低圧液相(Liq-II)と高圧液相(Liq-I)の代表的構造因子S(k)と還元動径分布関数G(r)12)を図4に示した.1気圧下では2 節で述べた模型を融解させて得られる液体が実験で見出された構造因子10)をよく再現する.この模型液体の最近接分子間配向の様子を調べたところ,充填度を上げる配向として知られているtype-1 とtype-2 の配向(図3挿入図)がほぼ同じ割合で見出された.13)type-1配向は結晶状態での最近接分子間配向であるが,type-2配向は融解によって初めて現れるものであることに注意されたい.構造因子の約2.7 A-1以上の成分は分子内相関を表す.実際,正四面体対称性を考慮した分子形状因子Sintra (k) = + j (krSn-I ) + j krSn-I?? ???? ??1 8312580 0 3 (1)でよく記述できる.ここでj0 は零次の球Bessel関数である.k ? 2.7 A-1成分の式(1)へフィット(点線)から分子内のSn-I距離rSn-I = 2.65 Aが得られる.S(k)のFourier(逆)変換がG(r)となる.常圧のG(r)は鋭い二本のピークで特徴付けられる.これらは分子内のSn-I とI-I相関を表し,前者のピーク位置は上で得られた2.65 A,後者の位置は4.33 Aとなり(図4b縦破線),それらの比は83に等しい.これは,分子の正四面体対称性を保証する.0.4 GPa下でもS(k)のk ? 2.7 A-1成分は依然として式(1)を満たしている(図4a 中段).対応するG(r)はその位置が縦破線に一致する2 本のピークをもつ.すなわち,この圧力下でも分子は健在で対称性Tdを有したままであることがわかる.ところがG(r)の第二ピーク幅が有意に広くなっていることが見てとれる.この理由は分子動力学法シミュレーションを援用して理解できる.シミュレーションから得られるG(r)を重ねて描いた(図4b中段).これは部分還元動径分布を重ね合せたものである.Sn-Sn間の部分動径分布の第一ピーク位置から最近0 2 4 6 8123k (A?1)S(k)1 atm 433 K0.4 GPa 610 K3.4 GPa 1017 K0 5 10 15012r (A)G(r) (A?2)1atm 433K0.4GPa 610K3.4GPa 1017K(a) (b)図4 (a)各表示状態での構造因子(実線,縦方向に1 ずつずらして表示).(Normalized structure factor S plotted againstwavenumber k at the condition indicated.)常圧の構造因子は分子動力学シミュレーションから求めたもの(●付細線)と比較している.低圧液体構造は約2.7 A-1以上の成分を分子形状因子にフィット可能である(点線).8 A-1付近のピーク(▼)が高圧液体では低波数側にシフトする.(b)各表示状態での還元動径分布関数(RRDF,縦方向に1 ずつずらして表示).有限波数窓による変換の影響が約2 Aより小さい領域に現れる).(Reduced radialdistribution function(RRDF)G, inverted from S, plotted against radial distance r.)常圧での四面体分子内のSn-I 間距離(2.65 A)とI-I 間距離(4.33 A)の位置を2 本の縦破線で示す.分子動力学シミュレーションから得られるRRDF(0.4 GPa, 610 K)をもとに推測した最近接分子間のI-I 間隔を▽(type-1 配向の場合)と▼(type-2 配向の場合)で示す.