ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 43ヨウ化錫系に期待される第二臨界現象化錫系が水同様の不定形多形状態図を有することを明らかにしてきた.この結果,ヨウ化錫においては第二臨界領域に立ち入れる可能性がきわめて高い.本稿では,こうした経緯について述べてみたい.2.圧力誘起非晶質化現象結晶に圧力を印加すると一般的には高対称の構造に転移し得る.ところが,正四面体対称性(Td)をもつヨウ化錫分子からなるヨウ化錫結晶(空間群Pa3,図2)は十数GPaの圧力印加で非晶質化を起こすことが見出されていた.4)この謎に挑戦したことがヨウ化錫との出会いとなった.当初,この問題は正四面体が三次元空間を充填できない点に帰着できると考えていた(乱れた四面体分子配置は後に見出される低密度非晶質状態に相当する).四面体分子は電気的に中性であるから四面体頂点位置にあるヨウ素間にvan der Waals相互作用をもつ作用点模型を考え,分子動力学法による加圧「実験」を行ってみたところ,常温での圧縮特性をよく再現するものの,加圧とともに分子間距離を縮めつつ,<111>周りに分子対は回転し,充填率を高めるだけで,結晶状態は数十GPaまできわめて安定であった.5)ところで,圧力非晶質化現象を起こす物質の共通する性質として,この負勾配の融解曲線が指摘されていた.6)非晶質化を固体状態での融解と見なすと結晶融解に際して何らかの異常が現れることを期待した.同模型の圧力下で加熱シミュレーションを行ってみたところ,予想に反して,加熱に対しても結晶相(CP-I)は安定で,その融点は圧力とともに単調に上昇した.7)この実験での検証が,ヨウ化錫が水型多形状態を有するという議論につながることになる.本論に入る前に,浜谷らによってダイヤモンドアンビルセルを用いて同時期に見出された重要な知見について述べておきたい.それは常温でのヨウ化錫の構造相転移シーケンス(図2)を明らかにしたことである.CP-Iは7 GPaで別の結晶相(CP-II)に一次転移し,その後に15 GPa 付近で非晶質状態(Am-I)を経由し,最終的に分子解離により61 GPa でヨウ素のfcc 相(CP-III)に転移する.8)さらに重要なことはCP-IIIからの減圧過程でAm-Iが3 GPa で別の新たな非晶質状態(Am-II)に遷移するを見出したことである.8)Am-II の再加圧により,その安定限界が7 GPa であることも見出した.8)最初に見出されていたAm-IはHDAであり,後で見出されたAm-II がLDAである.水と同様,異なる密度の非晶質多形が見出されたわけである.3.ヨウ化錫系のポリアモルフィズム3.1 融解異常マルチアンビル型プレス装置を用いた高圧下での放射光X線その場観察実験によりヨウ化錫の融解を直接観測し,融解曲線を決定したところ,やはり,温度-圧力相図で正勾配となる曲線となった(図3).しかるに,シミュレーション結果とは異なり,約1.5 GPaで屈曲することがわかった.9)それより高圧側では融解曲線はほぼcompressiondecompressionrecompression0 2 4 650010001500Pressure (GPa)Temperature (K)Am?II Am?ICP?ILiq?ILiq?IIC’type-1 type-2図2 (上)ヨウ化錫結晶相(CP-I)の単位胞.(The unitcell of CP-I at ambient conditions.)常温・常圧での格子定数は12.273 A.(下)常温でのCP-Iの圧力誘起構造変化.(The sequence of pressure-inducedstructural transitions observed at room temperature.)図3 ヨウ化錫の状態図.(Polyamorphic phase diagram oftin tetraiodide.)結晶相CP-Iの融解曲線( 太実線,△: 昇温過程で回折線を確認できた最高温度,▼:融点)と二液相(●:低圧液相Liq-IIの観測点,●:高圧液相Liq-Iの観測点).擬二正則溶体模型から得られる第二臨界点C’から延びる相境界(淡直線)とスピノーダル線(破線).後者は低密度非晶質状態Am-IIと高密度非晶質状態Am-Iの存在限界(それぞれ,□と■)を通る.(挿入図)面対面の最近接分子間配向(type-1)と頂点対面の分子間配向(type-2).編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.