ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

42 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)日本結晶学会誌 58,42-47(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~ヨウ化錫系に期待される第二臨界現象愛媛大学大学院理工学研究科 渕崎員弘Kazuhiro FUCHIZAKI: Second Critical Phenomena Expected in Tin TetraiodideThermodynamic anomaly of water is expected to be ascribable to the critical phenomenaassociated with the second(liquid-liquid)critical point, whose existence is, however, hardly provendirectly. This is because the(hypothesized)point is thought to exist below the crystal homogeneoustemperature, where no liquid bulk water can be probed. We have revealed that tin tetraiodide has quitea similar polyamorphic nature, but its second critical point is highly considered to lie in an accessibleregion.1.はじめに同じ重さの水なら,凍った場合,その体積が増えるということは日常の経験から馴染みの深い現象かもしれない.しかし,これは通常の物質では見られない,熱力学的にはきわめて異常な現象なのである.あるいは,その特異性のゆえ,水は生命や環境上の基本物質となり得たのかもしれない.実は21世紀の現在に至っても水の熱力学異常性に対する明確な物理的説明が与えられているとは言えない.ところが,この十年間において,この異常性についての理解が急速に進展し,全貌が明らかになりつつある.そのヒントは定温圧縮率,定圧熱容量,および定圧熱膨張率のすべてが,あたかもマイナス45℃に向かって「発散」しているように見える振る舞いにあった.すなわち,この温度にあたかも「臨界点」(図1 中のC’点)があるように振る舞うのである.この臨界点は,液相と気相の区別ができなくなる気-液相境界の端に位置する臨界点Cではなく,下で述べる密度を異にする二液相境界の端点のことであり,前者と区別するために第二臨界点と呼ばれる.したがって,第二臨界点について語る場合,同一成分から成る,密度の異なる二液相の存在が前提としている.しかし,この第二臨界点仮説の下では水の熱力学異常を簡潔に説明できるだけでなく,輸送係数異常も臨界揺らぎに帰着させることができる.また,前世期に見出された非晶質氷の多形,1)低密度非晶質氷(LDA)と高密度非晶質氷(HDA),が第二臨界点から延びる(準安定)相境界(F)で隔てられているということが極めて自然に説明できる.2)しかしながら,このシナリオの最大の弱点は,水の臨界点が氷点(TH)以下にあるため,仮説の根底にある臨界点の存在自体を顕に示すことができない点である.したがって,LDAとHDAがそれぞれ融解したと考えられる低密度水(LDL)と高密度水(HDL)を直接観察することはできない.このため水をナノ領域に閉じ込めるなどして,その臨界点を水の安定領域に引き上げたり,安定領域にある水の輸送係数異常から逆に臨界点の「尻尾」を引き出すことも試みられている.3)一方,筆者らはヨウ図1 水の準安定非晶質多形を含んだ状態図.(Polyamorphic phase diagram of water.)L:液相,LDL:低密度水,HDL:高密度水,LDA:低密度非晶質氷,HDA: 高密度非晶質氷,TH: 均一核生成温度,TX:自発結晶化温度,C’:(仮想)第二臨界点,F:(準安定)相境界,C’から延びる破線:スピノーダル線.TH とTX の間の領域ではバルクの水を観察することができず,「人類未踏の地」と呼ばれる.氷Ihと氷III の融解曲線と,それらの相境界線も参考のため描いている(Y型の実線).氷Ih の融解曲線が負勾配をもつことに注意されたい.図左上のCは気-液臨界点である.