ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

30 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)日本結晶学会誌 58,30-35(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~1.はじめに水(H2O)の結晶,氷には十数種類の結晶構造が存在する(図1a).1)このような単一組成に複数の結晶構造が存在する現象をポリモルフィズム(polymorphism)というが,この現象は結晶系だけの現象ではなく,液体のような乱れた構造にも存在することが最近になってわかってきた.われわれは乱れた系でのポリモルフィズムを「ポリアモルフィズム(polyamorphism)」と呼んでいる.ポリアモルフィズムは水(H2O),2),3)燐(P),4)TriphenylPhosphite,5)Al2O3-Y2O36)などで実際に観測されている.特に,水のポリアモルフィズムに関する研究は,三島らによる高密度アモルファス氷の発見に始まり,7)Pool などの液-液臨界点(liquid-liquid critical point:LLCP)の存在の示唆8)を経て,新しい液体論へと展開している.本稿では,水のポリアモルフィズムについて簡単に紹介し,水のポリアモルフィズムの応用として低濃度グリセロール水溶液のポリアモルフィック転移に関する実験結果9)を報告する.2.2つのアモルファス氷と液-液臨界点(LLCP)仮説1気圧の水は冷却するとTm= 0℃で結晶化するが,水の液体状態はTm以下でも過冷却水として存在することが可能である.さらに過冷却水を冷却すると,通常は均質核形成温度(TH=約-38 ℃)以下で急速に結晶化してしまうが,結晶の核が形成されるよりも速くガラス転移温度(Tg)以下に冷却されれば,過冷却水は結晶化せずにガラス状態になることができる.この時のガラス状態の水はガラス化する直前の液体状態と関係している.ガラス状態の水は,気相蒸着法10)と液体超急冷法11)などによって実際に作ることができる.特に,液体超急冷法を用いてガラス状態の水が液体の水から直接作られることから,ガラス状態の水は熱力学的に液体の水と関連していると考えられる.一方,このガラス状態の水より約20%程度密度が高い別のガラス状態の水が存在する.9)この高密度のガラス状態の水は,結晶氷Ih を77 Kで加圧し,氷Ih をアモルファス化することで初めて作られた.氷Ihの圧力誘起アモルファス化は氷Ihの圧力誘起融解現象と関係していることが示されている(図1a).12)また,このガラス状態の水は高圧下の水を急冷して作られることからも,13),14)この高密度のガラス状態の水も液体の水と熱力学的に関係していると考えられる.2つのガラス状態の水を区別するため,1気圧で作られたガラス状態の水を低密度アモルファス氷(low-density amorphousice:LDA),氷Ih の圧力誘起アモルファス化によって作グリセロール水溶液ガラスのポリアモルフィズム物質・材料研究機構,先端的共通技術部門,表界面構造・物性ユニット,ポリアモルフィズムグループ 鈴木芳治Yoshiharu SUZUKI: Polyamorphism of Glassy Glycerol-Water SolutionsWe studied a state of solvent water in the glassy dilute glycerol aqueous solutions from aviewpoint of water polyamorphism. We examined the pressure-induced polyamorphic transition ofthe glassy samples that relates to the transition between the low- and high-density amorphous ices,LDA and HDA. The polyamorphic behavior of the solvent water depends on the solute concentration.The state of solvent water during the polyamorphic transition may be the state that the LDA-like andHDA-like solvent waters coexist. This finding provides insight into the dynamic behavior of aqueoussolutions at low temperatures.0-100-2000 0.5 1.0liquidPressure / GPasupercooled liquidno-man’s landLDA HDALDL HDLLLCPLLTTHTx(b)A BL H L H0-100-2000 0.5 1.0IIIIII VIVVIIXliquidTemp / degree CPressure / GPa(a)amorphization図1 氷のポリモルフィズム(a)と水のポリアモルフィズム(b)(.Ice polymorphism( a) and water polyamorphism(b).)