ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

26 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)阿部 洋3.われわれの研究3.1 純粋なイオン液体の結晶化・アモルファス化低温の結晶多形は本特集号の遠藤先生の解説があるので,ここでは低温と高圧の結晶化・アモルファス化を比較することを主眼とする.イオン液体は低温か高圧で,結晶化,アモルファス化,結晶とアモルファスの共存が生じる.イオン液体の相互作用は,電荷(スカラー),双極子モーメント(ベクトル),配位数(トポロジー)が競合し,固体の状態が決まると考えられる.それぞれのバランスはカチオンとアニオンの組み合わせに依存する(カチオンとアニオンの特徴と相転移を表1 にまとめる).22)太字はわれわれが観測した相変化である.23)-27)代表的なイミダゾリウム系(CnCmim+),エーテル結合を有するDEME+カチオンとNO3-,BF4-,PF6-アニオンのバランスで,低温結晶化(cc:cold crystallization),28)減圧結晶化(dc:decompression crystallization)26)などの特異な相変化が現れる.系の非平衡と多自由度がカップルする相の複雑性・多様性・経路依存性は,自由エネルギーランドスケープに起因する.29)低温の複雑な相挙動はX線回折+示差熱走査型熱量(DSC)の同時測定(SmartLab,リガク)を用いて調べられた.17),22),27),30)-34)別々の測定で見逃されている相変化が確実にプローブされる.室温の高圧実験は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設(BL-18C)で行われた.ダイヤモンドアンビルセルを用いて,8 GPaまで加圧した.エントロピックな温度変化とは異なり,高圧下では窮屈さによってイオン液体の本性が現れる.一般に,コンフォメーション変化によって体積変化が生じる.カチオンにはコンフォメーション自由度があり,C2C1mim+,C4C1im+,DEME+カチオンの自由度はそれぞれ2,3,8 である(表1).22)カチオンのコンフォメーションと分子パッキング効率の競合で高圧の多彩な結晶構造が現れる.その一つに[DEME][BF4]の低温・高圧結晶構造のカチオンのanti-parallel pairingが挙げられる.27)そのanti-parallel pairingとは部分的に電荷ネットワークが破れていて,分子パッキングが優先されることである.また,低温で結晶多形を示す[C4C1im][PF6]28)を加圧すると,低温では見られない高圧結晶多形25)が現れる.さらに,6 GPa以上で結晶の一部がアモルファス化する.常圧ではC4C1im+カチオンTT,GT,G’Tの3つのコンフォメーション(図3)35)が安定であるが,高圧特有のコンフォメーション(Gc)の割合がアモルファス化に伴い不連続に増大する.TT,GT,G’Tの幾何学的な関係はアルキル鎖の120°回転で表される(図3).FOX36)の回折パターンを参照したシミュレーションで,曲がったアルキル鎖のC4C1im+カチオンが得られた.25)空間的に制約のあるGcコンフォメーションはアモルファス化に大きくかかわっている.8 GPaでは,いろいろなGcコンフォメーション(図3)が小さいR因子をもつので,多様に曲がったアルキル鎖が混在していると考えられる.つまり,C4C1im+カチオンはアルキル鎖がランダムに折り曲がって丸まった形状になり,上手く空間を充填している.このコンフォメーションのガラス状態は高圧のアモルファス化に寄与している.密にパッキングすることによって,エンタルピーで得をし,かつ,アルキル鎖がランダムに曲がることによって,エントロピーでも得をする描像が得られる.さらに,減圧した後のラマン分光から,カチオン・アニオンが壊れていないことがわかった.25)イミダゾリウム系ではコンフォメーション自由度をもつ長いアルキル鎖が圧力の影響を受けやすいと考えられる.高圧下でアルキル鎖の長い分子は,曲がることによって側鎖が切れるのを未然に防いでいるとも言える.TTGTG’TConformationGlass図3 C4C1im+カチオンの常圧で安定なコンフォメーションと高圧で現れるコンフォメーション・グラス.(Conformations of C4C1im+ cation. At highpressure, conformation glass occurred accompanyingamorphization.)Conformers C2C1im+2C4C1im+3DEME+8NO3- Proton CaptureLT:Cryst. LT:cc LT:Amor.HP:Cryst. HP:Amor. HP:Amor.BF4- Freezing FactorLT:Cryst. LT:Glass LT:Cryst.HP:dc HP:Amor. HP:dcPF6- Rotational DisorderLT:Cryst. LT:cc LT:Cryst.HP:Cryst. HP:Cryst. HP:?表1 カチオンとアニオンの組み合わせで変わる低温(LT)と高圧(HP)の固体相.(A variety of solid phasesdepending on combinations between cation and anion.cc and dc reveal cold crystallization and decompressioncrystallization respectively.)