ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 25イオン液体の可能性~新たなナノ不均一工学に向けて~Lopesらによって,イオン液体のナノ不均一構造がシミュレートされた.12)イオン液体は,典型的な非対称な側鎖をもつ1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム(CnC1im+)カチオンとPF6-,bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(TFSI-)アニオンである.非分極部位であるアルキル鎖の長さはn で表される.n が大きくなるにつれて,極性・非極性ナノドメインが成長する.液体状態のナノ不均一性を示したMD計算結果に世界が驚いた.さらに,Trioloらのグループによって,ナノ不均一性を示唆するX線回折のプレピークが観測された.13),14)プレピークはナノドメインに直接対応していると議論されてきたが,最近のLopes のグループの計算結果15)は,分子間と分子内の2体相関関数でプレピーク強度と位置が再現できると主張している(図1).ナノドメインが非常に遅く揺らいでいると仮定すると,液体状態の“非常に強い分子相関”に起因するプレピークは理解できる.また,CnCmim+カチオンの非対称性の効果を調べるために,2つのアルキル鎖長(n,m)を系統的に変えて計算し,ナノ不均一構造を制御できることを示唆している.15)いろいろなナノ不均一構造が提唱されているが,イオン液体のナノ不均一構造の多様性はカチオンとアニオンの組み合わせに比例して多くなると考えられる.実験で,n = 6を境にイオン性から液晶性へ乗り替わることが示された.16),17[) CnC1im[]TFSI(]2 ? n ? 10)のTFSI-のコンフォメーションの不連続性がn = 6で現れる.これらの結果はn > 6のナノドメインの発達14)に対応している.また,最近の研究から,室温の2 GPa付近で,[C8C1im][BF4]のプレピークが消失することがわかった.18)高圧下では,ナノ不均一性がパッキング効率を優先することによって,密度不均一性が解消される.ナノ不均一性は純粋なイオン液体に留まらず,混合系へと展開されている.イオン液体中の水分子の異常な振舞いがVothらのグループのMDで明らかにされた.19)水の低濃度領域では,水分子がナノドメイン境界に点在する.一方,75 mol% H2O以上で,ある大きさをもって閉じ込められる(図2).液体中に『閉じ込められた水』は,95 mol%の水分子のパーコレートによって消滅する.水の高濃度領域の水の拡散定数の増大とともに,カチオンとアニオンの拡散定数も急激に大きくなる.つまり,95 mol%以上ではカチオンとアニオンの相互作用は非常に弱くなることがわかる.最近,これらの純粋なイオン液体と混合系のナノ不均一性20),21)と階層性22)がレビューされている.図1 [CnCmim][TFSI]のMDシミュレーションとX線回折プレピーク.(Low q components of X-ray diffractionand simulated nanostructures of [CnCmim][TFSI].)右側の(c)~(f)がMDシミュレーションで,赤色がアニオン,青色がカチオンの分極している部分で灰色がカチオンのアルキル鎖を現している.左側の(a)がMDから求められた構造因子,(b)はX線回折パターン.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図2 [C8C1im][NO3]- x mol% H2OのMDシミュレーション.(Nanostructures of [C8C1im][NO3]- x mol%H2O. Blue parts reveal water molecules.)水分子(青色)は極性・非極性ナノドメインの界面に閉じ込められる.(a)0%,(b)20%,(c)50%,(d)75%,(e)80%,(f)95.2%.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.