ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

24 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)日本結晶学会誌 58,24-29(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~1.はじめにわれわれは,あまりにも身近な存在の『水』を何気なく見過ごしてしまいがちである.しかし,ミクロスコピックなスケールで眺めると,単純分子でありながら,その驚異的な機能はわれわれの常識を凌駕する.例えば,水素結合,プロトン遷移などに起因する動的平衡などが挙げられる.一方,水分子の『ナノスケールの閉じ込め』は,数多く試みられている.それはナノマテリアルと同じ考え方で,バルクとは全く異なる機能がナノサイズで発現するからである.さらに,ナノスケールの空間的な制約・束縛で水分子本来の特異性が明らかになる.一般に,カメレオンのようにそれぞれの環境に潜んでいる水分子の本来の機能を抽出することは至難の業であるが,近年の実験手法・計算機の進歩によって水分子の隠れた個性が明らかになりつつある.Stanleyのグループ1)-4)で,各環境下での水分子の分子動力学の計算が行われている(高圧下の水分子の振舞は本特集号の鈴木先生,千葉先生の解説があるので,ここでは省略する).滑らかで疎水的な板に挟まれたナノフィルム状の水分子の状態図(密度-温度)が示された.液体構造とエネルギー安定性から有限サイズ効果が議論されている.次に,水素結合をもたない平行な基板に挟まれた二層の水分子の分子動力学(MD:MolecularDynamics)シミュレーションが行われた.5)側面方向の圧力と高温からの急冷によって準周期性が現れる.堂寺らは単純なポテンシャルを用いて,特徴的な2 つの長さがソフトマター準結晶を安定化させることをMDで明らかにした.6)水分子準結晶も不均一な2 種類の水素結合に起因しているのかもしれない.大規MDシミュレーションは水の濡れ性(片面が束縛されている場合)にも適用され,実験的に求められた接触角ヒステリシスを再現することができる.7)基板の微細な凹凸に液体が入り込める場合と入り込めない場合を系統的に計算している.水分子のナノ液滴の実験から,液滴のコアの部分と界面の水分子のダイナミクスが明らかに異なることを示した.8)界面の水分子の易動度は非常に遅い.また,電場下のナノ液滴のモデル計算は大きなインパクトを与えた.9)電場と水分子の双極子モーメントを考慮したモデルはタンパク質の表面電荷と水素結合を考察するうえで,非常に重要なモデルとなる.平行Au電極の電極間距離は10 nmである.液滴中の水分子の拡散から,電場下の水のナノ液滴は5つの領域に分類される:(i)バルク水(通常のランダム・ウォーク),(ii)一番高い易動度をもつ液滴上部の表面水分子,(iii)基板から立ち上がる液滴の部分(非常に速いが空間的に閉じ込められている),(iv)電極表面に束縛された水分子層(一番低い易動度をもち,ほとんど分子交換が生じない),(iv)表面-基板界面間を移動する水分子.外場下で,ナノスケールに閉じ込められた水の動的不均一性は,動的平衡の概念とともにこれからますます重要になっていくと思われる.われわれのグループでは,従来の固体を用いた『閉じ込め』と異なる液体中の『ゆるい閉じ込め』に注目した.ナノスケールでゆるく閉じ込められた水分子の凝集構造と水素結合状態から新たなナノ不均一工学の可能性を探る.2.イオン液体のナノ不均一性イオン液体はイオン性の分子でありながら,常温で液体状態となる不思議な溶融塩である.グリーンケミストリ10)や電気化学デバイス11)などに応用されているが,ここではイオン液体の特異な液体構造を中心に述べる.イオン液体の可能性~新たなナノ不均一工学に向けて~防衛大機能材料 阿部 洋Hiroshi ABE: Prospects of Room-Temperature Ionic Liquids~Road to Novel NanoHeterogeneous Engineering~Nano-confinement of water (“water pocket”) in room-temperature ionic liquid (RTILs) wasexperimentally proved by a complementary use of small angle X-ray and neutron scattering. Thesize of the water pocket was estimated to be 2 ~ 3 nm. The water pocket is loosely packed and sizetunablein the RTIL. Hydrogen bonding water of the water pocket is different from that of bulk water.The water pocket is modified by intrinsic nanodomains in the RTILs. With reflecting slow dynamicfluctuations on the nanoscale, the polar/non-polar nanodomains in the RTILs are utilized for looselypacked nano-confinement in bioscience.