ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 21イミダゾリウム系イオン液体の階層的・ガラスダイナミクスここで,R(Q,ω)は分解能関数,?は畳み込み演算子,BGはバックグラウンドである.図中のカーブは,それぞれの関数の分率(AE,Ai)と半値半幅ΓiおよびBGを可変パラメータにしてフィッティングした結果である.図4aには,各関数の寄与も合わせて示してある.ローレンツ関数は指数関数exp(-t /τ)のフーリエ変換であり,緩和時間τ はτ = 1/Γから得られる.一方,HFBSで得られた準弾性スペクトルは伸長指数関数のフーリエ変換S Q R Q FT B t BG ( , ) ( , ) exp ( / ) ω ω τ β = ? ? { } ?????3 + (3)でよくフィットできた.この緩和はAGNESでは弾性散乱として観測された成分である.つまり,AGNESの時間領域(0.1 ~ 10 ps)では“静止している”ように見えたものが,HFBSの時間領域(0.1 ~ 10 ns)では“動いている”ものとして検知できたことになる.ここで,伸長指数関数は数学的には緩和時間に分布があることに対応しており,その平均緩和時間<τ>は<τ>= τ/β・Γ(1/β)から見積もられる.ここでΓ はガンマ関数である.これらの緩和の起源を議論するために,Q依存性を調べることは非常に有用である.図5 にΓ1,Γ2,<τ3>-1のQ依存性を示す.Γ1,Γ2はQにあまり依存せず,局所運動であると考えられる.一方,<τ3>-1(半値半幅に対応)はQが大きくなるにつれ増加し,陽イオンの並進拡散運動(イオン拡散)であることを意味する.図5c の実線はジャンプ拡散モデルττ 3121 2(Q) DQDQ? =+ r(4)でフィットした結果である.このモデルは粒子(分子)がある位置に時間τr 滞在した後,別の位置にジャンプするというモデルであり,液体の並進拡散運動はこのモデルに従うことが多い.ここでDは拡散係数であり,Q≪ 1で式(4)はτ = 1/DQ2(Fickの法則)と同じになる.また,得られた拡散係数の値はD= 3.1 × 10-11 m2/s で,パルス磁場勾配NMRから見積もられた値10)(1.3 × 10-11 m2/s)とほぼ対応する.次に,速い2 つの緩和(τ1,τ2)について考察する.緩和強度の分率(AE,A1,A2)から,動いているH原子の数について知ることができる.一番速い緩和(τ1)の分率は0.8程度で,これは全体のH原子(23個)のうちイミダゾリウム環のアルキル鎖とメチル基中のH原子の数(20個)の割合にほぼ対応する.したがって,緩和τ1 はアルキル鎖の局所回転運動であると結論付けられる.一方,緩和τ2 は残りのH原子からの寄与であり,イミダゾリウム環の運動と考えられる.緩和強度分率のQ依存性から運動の空間情報を得ることができ,イミダゾリウム環のH原子は半径1.7 A程度の空間を動いていることがわかった.この値がイミダゾリウム環の半径(2.25 A)よりも小さいことから,この運動はイミダゾリウム環の全体回転ではなく秤動運動のような小規模の運動(局所運動)であると考えられる.緩和時間の温度依存性をアレニウス式τ=τ0 exp(Ea/RT)でフィットすることにより活性化エネルギーEaを求図4 (a)AGNESおよび(b)HFBSで得られたC8mimTFSIの動的構造因子.(Dynamic structure factors of C8mimTFSItaken on(a)AGNES and(b)HFBS.)編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図5 C8mimTFSIのΓ1,Γ2,( τ3)-1のQ依存性.(Q-dependenceof Γ1, Γ2,(τ3)-1 for C8mimTFSI.)