ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

16 日本結晶学会誌 第58 巻 第1 号(2016)山室 修,水野勇希,古府麻衣子距離や相対角度に対応する6 個のパラメータで表す.以上のパラメータに平均相関分子数,配向ゆらぎなどのパラメータを加えて,実測のS(Q)へのパラメータフィッティングを行う.図5 はCCl4 ガラスにおける分子中心の2 体分布関数の計算値である.相関項と相関がない項を別々にプロットしてある.相関項を見ると,5 Aと8 Aに明確なピークが存在する.図中の構造図は,前述のパラメータフィッティングにより決定したCCl4分子の配向相関を描いたものである.CCl4分子は正四面体型であるが,1個のCl原子が,隣接する分子の3 個のCl原子の“くぼみ”に入り込んだ構造をしている.図では1 つのCCl4分子に対して2個の隣接する分子を描いてあるが,この3分子の中心間距離が,5 Aと8 Aに対応する.CCl4分子1個当たりCl原子が4 個,くぼみが4 箇所であるが(分子9 個のクラスターが形成可能),前述のフィッティングでは.1 分子当たり平均5 個の相関分子が存在することがわかっている.4.CO2 ガラスのX 線回折図6 に,図2で示した装置を用いて蒸着したCO2 のX線回折パターンを示す.蒸着は,3 Kの基板に0.01 μm/hというきわめて遅い速度で約200 h行われた(試料厚約2 μm).試料量が少ないため,測定には約4日間を要した.蒸着した試料(赤線)では,ガラス構造特有のハローパターンが観測されている.試料を25 K以上に昇温すると,即座に結晶化が起こり,図6に示す結晶のパターン(青線)が得られた.ブラッグピークの位置は文献の結晶構造(空間群Pa3)31)から計算したピーク位置(黒の縦線)と完全に一致している.これまでに,水との混合気体で薄膜状のCOガラスが作成されたことはあるが,32)単体でかつ構造解析ができるバルク量のガラスとしては,われわれの実験のCO2ガラスが最も単純な分子ガラスである.CO2ガラスの回折データから構造因子S(Q)を計算し(統計精度がきわめて悪い4 A-1以上では液体のS(Q)や計算による分子内S(Q)を使用),そのフーリエ変換から2体分布関数G(r)を計算した.その結果を図7に示す.比較のため,液体14)および結晶31()計算値)のG(r)も示してある.議論のため,結晶における最近接分子間の配置(ほぼT型)31)を図に示した.当然ながら,すべての状態において分子内相関は一致している.非常に興味深いのは,ガラス試料が結晶の最近接分子間の相関(O1-C2,O1-O3,O1-O4)と同じ距離付近に強い相関をもつことである.このことは,ガラスでは分子配向相関が発達しており,その相関は結晶に近いことを示している.リバースモンテカルロ法などを用いてより詳しい議論を行うには,図6のデータの統計精度は悪すぎる.もちろん試料量を増やせばデータの質は良くなるのだが,試料厚を2 μm以上にすると,徐々に結晶化が起こることがわかっている.現在,SPring-8 のX線回折装置(BL04B2)を用いた実験を計画している.5.終わりに以上に述べてきたように,低温蒸着法による単純ガラスの構造研究は少しずつ進化しCO2 まで辿り着いた.現在は,2原子分子であるCOとN2のガラス作成にトライしているがいまだ成功していない.計算機シミュレーションでよく扱われる大きさが異なる球形分子(例えばXeとNe)の実験も計画している.また,第1 原理計算から得られる最安定構造と実験から得られた構造との比較も興味深い.最後に筆者の研究に興味をもっていただき,液体の構造解析の手ほどきをしていただいた故三沢正勝先生にこの場を借りて心からの謝意を表したい.図7 蒸着CO2の2体分布関数.(Pair distribution functionsfor vapor-deposited CO2.)図6 蒸着CO2のX線回折パターン.(X-ray diffractionpatterns of vapor-deposited CO2.)編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.