ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 15低温蒸着法で作製した単純分子ガラスの構造あることは,中性子散乱法の不利な点である.図3 につくばにあったKENS施設(現在はJ-PARCに移行)のHIT分光器で測定した蒸着CS2ガラスの中性子回折データを示す.17)この実験では,CS2気体を10 Kの基板に10 h 程度かけて約0.1 mmの厚みになるように蒸着した.もちろん,蒸着基板の寄与は引き去ってある.低温ではガラス特有のブロードな回折パターン(ハローパターン)が観測されており,昇温すると70 K付近で結晶化を起こしてシャープなブラッグピークに変化する様子が見て取れる.CS2は分子量76の直線対称3原子分子であり,当時としては最も単純な分子ガラスであった.この物質のガラス転移温度(Tg)は,CS2 とエチルベンゼンを混合した系の実験29)から約100 K程度と見積もられているので,本実験はTg よりはるかに低温でCS2 ガラスが結晶化したことを示している.Tgは分子が拡散運動を始める温度なので,Tg 以下での結晶化は興味深い結果であるが,ガラス転移自身を研究している研究者にとっては,歓迎できない結果でもある.図4 はCS2ガラスおよび同様の方法で作製したCCl4 ガラスの構造因子を室温付近の液体の構造因子と比較したものである.高Q領域でガラスと液体のデータが一致しているのは,高Q領域のデータがほぼ分子内相関を反映しているためである.ガラスの第1 ピークが液体の第1ピークより高Q側にシフトしているのは,ガラスの密度が液体より高いことを示している.最も興味深いのは,CS2とCCl4 の両方において,液体の第2,第3 ピークがガラスでは強くシャープになっていることである(CS2 では,液体では重なって1 本に見えていたピークが分裂している).これは,次に示すように,ガラスの分子間配向相関が液体より強いことに対応している.図4 のデータを三沢らが開発した方法30)により解析した.解析の概要は以下のとおりである(詳細は文献30)参照).まず,構造因子S(Q)を分子配向相関がない項S(u Q)と配向相関による補正項ΔS(Q)に分ける.さらにSu(Q)を分子内構造因子F1 ( Q),分子形状因子Fu ( Q)および分子中心の構造因子Sc (Q)により表す.ここで,Sc ( Q)はPercus-Yevick の剛体球モデル(パラメータは有効質量と充填率)により近似する.ΔS(Q)は2分子間の図3 蒸着CS2の中性子回折パターン.(Neutron diffractionpatterns of vapor-deposited CS2.)図4 液体およびガラス状態におけるCS2 とCCl4 の中性子構造因子.(Structure factors of liquid and glassy CS2and CCl4.)図5 蒸着CCl4ガラスにおける2体分子中心分布関数.(Pair correlation functions for molecular centers ofCCl4.)