ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No1

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概要

日本結晶学会誌Vol58No1

日本結晶学会誌 第58巻 第1号(2016) 7日本結晶学会誌 58,7-12(2016)特集 ユニークな分子の凝集構造 ~不均一性・階層性・多形性の立場から~1.緒 言1.1 イオン液体とはイオン液体とは,室温付近で液体状態の塩である.厳密な定義にはやや議論が残るが,一般的には,融点が373 K 以下の塩という定義が受け入られているようである.1)電解質溶液とは異なり,100%イオンのみからなる液体である.従来用いられてきている分子性液体とも異なり,液体として,さまざまな特徴を有している.例えば,(実験的には)不揮発性・不燃性,熱的/化学的に安定,特異な溶解能などである.また,構成イオンの多くが有機イオンや錯イオンであることから,物性や機能をデザインしたイオン液体を作り出すこともできる.上の特徴から,電解質や化学反応場のみならず,イオン液体のさまざまな応用が展開されている.近年では,いくつかのイオン液体が,難溶性物質であるセルロースを高濃度で溶解させることが発見されてから,2)バイオリファイナリーの分野からも熱い注目を集めている.1.2 なぜ熱的相挙動か筆者らのグループでは,イオン液体の熱的相挙動(融解,結晶化,ガラス転移,固相-固相転移など)に興味をもって,研究を進めてきた.これは,1 つには,イオン液体の定義上,融点が最も重要な物性と言ってよいことと関連する.「なぜイオン液体の融点は低いか」は,イオン液体における最も基本的な疑問である.大きなイオンサイズによるイオン間相互作用の低下や,フレキシブルかつ非対称なイオン構造によるエントロピーの増大が主要因であると,定性的には捉えられているが,いまだ完全な理解へとは到達していない.またもう1 つは,イオン液体が興味深い熱的相挙動を示すことによる.例えば,融点よりも低温から徐々に融けだす前駆融解現象,長い過冷却液体領域をもち,容易にガラス化する性質,熱履歴現象を示し,複雑な固相―固相転移を有するなどである.これらの特異的な相変化の多くは,非常に遅い協奏的(カチオンとアニオンの複雑な相互作用に基づく)ダイナミクスに支配されている.筆者らは,これらイオン液体に特徴的な(マクロな)熱的相挙動を理解するために,精密な熱測定を行うとともに,分子レベルからの理解も目指して,Raman分光,量子化学計算,X線解析,固体/液体NMR分光を駆使して多角的に研究を進めてきた.本論文では,筆者らの成果の中から,1-alkyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphates([Cnmim]PF6,n=1 ~4)について紹介する.[Cnmim]PF6系のイオン液体は,比較的単純な構造を有し,頻繁に用いられるイオン液体群である.結論から述べれば,n =2,3 は,いわば一般的なイオン液体のシンプルな熱的相挙動を示す一方で,n = 1,4 はアルキル鎖の長さに違いがあるだけであるにもかかわらず,n = 2,3 とは大きく異なる挙動が見られた.2.[Cnmim]PF6 の熱的相挙動図1 には[Cnmim]PF6の熱量測定の結果をまとめて示す.3)-5)なお,掃引速度は1.2 K/minであり,一般的な熱量測定よりも数倍遅い.掃引速度を遅くすることで,測定時間が長くなるのみならず,相変化ピークは小さくなり,また装置に高い熱安定性が要求されるが,一方で,ピーPF6-を対アニオンとしたイミダゾリウム系イオン液体の複雑な熱的相挙動とその分子レベルでの理解金沢大学理工研究域 遠藤太佳嗣千葉大学大学院融合科学研究科 西川惠子Takatsugu ENDO and Keiko NISHIKAWA: Understanding Thermal Phase Behaviors ofPF6--Paired Imidazolium-Based Ionic Liquids at the Molecular LevelHere we review our recent works on thermal phase behaviors of ionic liquids, 1-alkyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphates( [Cnmim]PF6, n=1 ~ 4). Their complex thermal phasebehaviors observed in calorimetric measurements were investigated at the molecular level usingcombined techniques of Raman spectroscopy, quantum chemical calculations, X-ray analyses, andnuclear magnetic resonance spectroscopy. It was demonstrated that the conformational flexibility ofthe side chain in the cation played a key role for thermal phase behaviors of some ILs as representedby[ C4mim]PF6, nevertheless, which was not always the case for others as evidenced in[ C1mim]PF6results.