ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

294 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)今田勝巳,小嶋誠司結晶のうち2つは非対称単位に2分子あるため)においてすべて異なることから,構造の違いはβ3 ? α4 loop が本質的にフレキシブルであることを反映したに過ぎないと思われる.3 つ目はα1 とα2 の構造である.PomBのα1はMotBよりも16残基短く,α2は向きが異なる.なお,今回明らかになった構造では,PEM領域内の121-153 の32残基はdisorderしていた.構造に基づく配列アライメントから,109-152 はMotBにはないPomB特有の領域であること,121-153は固定子が機能するために必須であることから,おそらく121-153 のどこかでPomBはTリングと結合すると考えられる.6.PomB の構造変化ビブリオの固定子複合体(PomAB複合体)は,電子顕微鏡像の単粒子解析により低分解能構造が得られている.10)PomAB複合体はダルマ型をしているが,OmpA様ドメインを欠くPomBとPomAの複合体の単粒子解析像ではダルマの頭部がなくなることから,この部分がPomBのペリプラズムドメインに相当すると考えられる.PomBC2量体の結晶構造は,ダルマの頭部に凹凸を含めてうまく当てはまった.この固定子像を細胞内膜の位置に置き,ビブリオのべん毛基部体の電子顕微鏡像と大きさを合わせて表示すると,Mot BCと同様にPomBCはPG層にはまったく届かない(図4).したがって,PomBCもモーターへの組み込みに伴う大きな構造変化が必要である.β1からC末側のOmpA様ドメインの構造はPG結合タンパク質に共通することから,構造変化が起こるとするとやはりα1-α2 の領域であると考えられる.そこで,α1 とOmpA様ドメインの間にS-S 架橋を導入して構造変化を阻止したときに菌体の運動にどのような影響が出るか調べた.結晶構造から,Cysに変えることでα1 とOmpA様ドメインの間にS-S 架橋ができそうな場所を探し,7 組のアミノ酸残基ペアを選出した.そして,それらにCys変異を導入したPomBを発現する菌の泳ぎを,寒天培地上のコロニーの広がり(モーターが機能するならば,菌は泳ぐのでコロニーがリング状に広がる)と光学顕微鏡を用いて調べた(図5).すると,7組のうち2 組(M157C/I186C,I164C/L217C)はまったく泳がず,2 組(L160C/I186C,L168C/Q213C)はコロニーは広がら図4 Na駆動型モーターの固定子モデル.(Structuremodel of the stator of the sodium driven motor.)a)PomBC5二量体のリボンモデル(上)とPomA4B2複合体の低分解能電子顕微鏡密度図(下).b)c)PomBC5二量体の電子顕微鏡の密度図へのあてはめ.c)はb)を横から見た図.d)細胞膜中に存在する固定子のモデル.べん毛基部体の電子顕微鏡写真を大きさを合わせて固定子の右側に表示.PomBCはPG層に届かない.図5 α1 とOmpA様ドメインの架橋実験.(Cross-linkbetween α1 and the OmpA-like domain.)a)Cys 変異を入れたアミノ酸残基のペア.二重線で示した残基間を架橋してもモーターは機能するが,実線で示した残基を架橋すると機能しなくなる.破線で示した残基どうしは一部に架橋がかかり,一部のモーターの機能が失われた.点線の残基どうしは架橋せず,モーターは機能した.b)c)寒天培地上でのコロニーに広がり.b)は培地中に還元剤(DTT)なしのとき,c)は還元剤(DTT)ありのとき.