ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

278 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)波多 聰,光原昌寿,中島英治,池田賢一,佐藤和久,村山光宏,工藤博幸,宮崎伸介,古河弘光ムを用いると,連続傾斜像枚数130 枚(図2c)ではFePt粒子の3D形態の可視化を確認できるが,13 枚(図2d)では情報欠落に伴うノイズにより粒子の形態観察が困難である.一方,ISERによる再構成画像(図2e)では,(d)と同じ13枚の画像を用いた場合でも,FePt粒子領域とそれ以外の領域のコントラストが高く,粒子の3D形態を明瞭に可視化できている.しかも,図2b の断面観察との対応はFBP(c,d)よりもISER(e)のほうが良い.例えば,伸びたFePt粒子の先端部がFBP(図2c)では直線的に尖る傾向があるのに対して,断面像(図2b)とISERの再構築像(図2e)での伸長粒子の先端部は丸みを帯びた形状となっている.このように,CSをベースとした3D画像再構成法は,少ない画像枚数でも高いコントラストで観察対象を3D可視化するとともに,試料傾斜角度範囲が± 90°に満たないことによる試料厚み方向の寸法再現精度低下の問題を改善することができる.3.ET の格子欠陥解析への応用回折コントラストを用いたETは,ET観察手法の中でも特徴あるものとして,これに適した試料ホルダーの開発も含め諸所で採り上げられている.2),29)-32)特に,結晶中の転位を観察対象とした回折コントラストET観察は,原子の直接観察が全盛と言うべき透過電子顕微鏡の研究分野の中で,数は多くないものの複数の研究グループが最近まで報告を続けているユニークなトピックである.14),15),33)-48)この理由は,電子顕微鏡は原子を見ることができるとともに,中間的なメソスケール構造の観察にも適しており,転位は材料強度などに直接結びつく重要なメソスケール構造であるからにほかならない.本稿では,2006年のScience誌に転位のET観察が初めて発表されて以来の,33)この3D観察技法の応用と進展を紹介する.3.1 転位のET 観察に適したイメージング転位は線状の格子欠陥であるが,転位の周りの格子ひずみは三次元的であり,この格子ひずみによって生じる転位のTEM像コントラストも三次元的な分布をもつ.そこで考えられたのが弱ビーム暗視野(Weak Beam Dark-Field:WBDF49))法と呼ばれるイメージング法である.これは,高次反射(例えば3g,g は回折ベクトル)をブラッグ条件に合わせて励起しながらブラッグ条件から少しずれた低次反射(例えばg)で結像し,転位のごく近傍にのみ回折コントラストを生じさせ,シャープな転位線を観察するというものである.転位のET観察を最初に発表したケンブリッジ大学のグループは,このTEM-WBDF法を採用した.33),34)ところが,ブラッグ条件から外れたときの回折波の実効消衰距離は短くなるため,転位のコントラストとともに等厚干渉縞が狭い間隔でたくさん現れる.その結果,転位の3D再構成画像の中に等厚干渉縞まで可視化されてしまう.34)また,薄膜試料を傾斜していくと入射電子線の透過距離(有効試料厚み)が増し(60°傾斜で実際の試料厚みの2 倍,70°で約3 倍),ブラッグ回折に寄与する弾性散乱電子が減少するために,高角度傾斜側では転位の像コントラストそのものが低下してしまう.その結果,高角度傾斜で撮影した画像情報が3D再構成画像に寄与しなくなり,試料厚み方向の分解能低下が生じる.50)上記の問題を克服するために,転位のET観察に適したイメージング法や3D可視化法が検討され,現在では以下のような方策が採られている.3.1.1 STEM モードでの観察入射電子線方位に分布をもつ収束電子線を用いたSTEMで転位を観察すると,次のような点が有利となる.(1) 平行ビーム照射条件のTEMに比べて,回折条件が変化しても転位のコントラストが消えにくい(図3 31)).ただし,収差補正レンズ系を有するSTEMの場合には,収束角が大きすぎて転位のコントラストまで著しく低下するので,その場合には収束角を小さくする.また,収束電子線を用いたSTEM像においても,いわゆるg・b = 0 条件(g は回折ベクトル,bは転位のバーガースベクトル)による転位線コントラストの消滅は起こるので,51),52)視野中のすべての転位を3D可視化する際には同一視野で異なるg を用いて連続傾斜像撮影を2 回行うなどの方法を採る図2 Xeイオン照射を施したFePt/Al2O3薄膜28)のTEM像および種々の条件で再構成したFePtナノ粒子の3D画像.27)(TEM images of FePt/Al2O3 film28) after 210MeV Xe ion irradiation and reconstructed 3D volumesof the FePt nanoparticles under different conditions.27))(a)試料傾斜角度0 °での平面TEM像.図中の正方形で囲んだ領域は3D画像再構成を行った領域を表す.(b)断面TEM明視野像.(c)1°傾斜ごとに撮影した合計130枚の連続傾斜像からフィルター逆投影(FBP)により再構成した3D画像.(d)(c)の連続傾斜像データから13枚の画像を抽出してFBPにより再構成した場合.(e)(d)と同じ13 枚の画像からIterative SEries Reduction(ISER)により再構成した場合.