ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

藤井孝太郎図9BaNdInO 4の空間群(a,b)P2 1/mおよび(c,d)P2 1/cによるリートベルト解析の結果.(Results of the Rietveldrefinement of BaNdInO 4 in space group(a,b)P2 1/m and(c,d)P2 1/c.)(a,c)は放射光X線回折データ,(b,d)はTOF中性子回折データに対する解析の結果.図10(a)BaNdInO 4の結晶構造.(b)BO 6八面体の頂点酸素(左)および稜(右)がA-Oユニットと接する構造の模式図.((a)Crystal structures of BaNdInO 4and(b)schematic figures of apical oxygen facing(left)and edge facing(right)structures.)(編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.)とが明らかになった.この構造において,Ba,Nd,Inは配位数がそれぞれ11,7,6である.AとA′が完全に不規則化しているK 2NiF 4型構造では,(A,A′)の配位数は9であったが,BaNdInO 4では相対的に大きいBaがより配位数の多い11配位の席を占有し,小さいNdがより配位数の少ない7配位の席を占有したことから,AとA′の規則化が達成されたと考えられる.ペロブスカイトユニットをもつペロブスカイト関連構造は,これまでRuddlesden-Popper型構造(K 2NiF 4型構造も含む)29)やDion-Jacobson型構造,30),31)32Auribillius型構造)などが知られているが,そのいずれもペロブスカイトユニットにおけるBO 6八面体の頂点がA-Oユニットと接する構造を有している(図10b左).一方,BaNdInO 4では,BO 6八面体の稜(縁)がA-Oユニット(A希土構造A 2O 3ユニット)と接しており(図10b右),このような特徴はこれまでにないものである.直流四端子法による電気伝導度の測定を行ったところ,BaNdInO 4は酸化物イオン伝導を示すことが確認された.酸素分圧に対する全電気伝導度の測定から,酸素分圧によってホール伝導が支配的な領域,酸化物イオンとホールの混合伝導領域,純酸化物イオン伝導の領域,酸化物イオンと電子の混合伝導領域が存在することが確認された.この結果より,BaNdInO 4が新構造ファミリーの属する新しい酸化物イオン伝導体であることがわかった.そこで,この構造における酸化物イオンの伝導経路を明らかにするため,酸化物イオンが流れやすい高温(1000℃)における結晶構造に基づき,結晶格子内で酸化物イオンが安定に存在しうる領域を結合原子価法により計算した.1000℃における中性子回折測定は,ANSTOにあるEchidnaにて,真空高温炉を用いて実施している.結合原子価(BV:Bond Valence)は,陽イオンと陰イオンの原子間距離から経験的なパラメータを使い計算される値で,その原子間(結合)のもつ原子価に相当する.ある原子(イオン)について,BVの総和(BVS:BV Sum)をとると,その原子(イオン)の実効的な価数とみなせる.グリッド分割した結晶格子内の各点において,近接する陽イオンとの距離から酸化物イオンに対するBVSを計算すると,酸化物イオンの形式電荷2に近い部分,すなわち酸化物イオンが安定に存在しうる位置を調べられる.具体的な値の扱いとしては,計算された酸化物イオンに対するBVSと,酸化物イオンの形式価数2の差分をとったDBVSが0に近い領域が酸化物イオンが安定に存在しうる領域,つまり酸化物イオンの推定拡散経路となる.今回,プログラム3DBVSMAPER 33)を用いて,結晶格子内における酸化物イオンの安定領域を検討した.その結果,酸化物イオンがA希土構造A 2O 3ユニット内を二次元に拡散する経路が考えられた(図11).この伝導経路は,これまでにない新しいタイプの伝導経路であり,今後,さらなる元素置換等による改良により酸化物イオン伝導度の向上が期待される.BaNdInO 4の酸化物イオン伝導度は,850℃で3.1×10-5 S cm-1とあまり高くない.しかし,このような方針で材料探索を進めることで,まったく新しいタイプの材料が開発できることがわかったことは,今後の材料科学分野において,とても大きな意味をもっている.このような新材料開発にも,粉末未知結晶構造解析法が活躍する.単結晶の調製を不要とし,気軽に未知の構造を明らかにできることは,材料開発をより効率良く進められる.6.おわりに本稿では,粉末未知結晶構造解析によって初めて展開176日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)