ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

日本結晶学会誌57,79-86(2015)産業界で活躍する結晶学(6)固体電解質探索と結晶構造解析高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所米村雅雄Masao YONEMURA: Crystal Structure Refinements UsingPowder Diffraction Data for New Solid-State ElectrolytesCrystalline-ionic conductors of lithium ions have been investigatedsince 1970s. They showed lower conductivity than silver and copper ones.Recently, new super lithium ionic conductor, LGPS system was designedand developed. This material showed quite high conductivity, 12 mS/cm,but, its structure was completely new and unknown. By the assistanceof crystallographic software using an ab initio method, the unknownstructure was solved from multi-probe powder diffraction data. That typeof?software?is?really?necessary?on?the?material?searching?field.1.はじめにイオン導電体は,固体の中をイオンが移動できる材料を指す.代表的な材料には,教科書的な材料であるα-ヨウ化銀が有名である.146℃以上で相転移し,その高温導電相のイオン導電率は,1.3 S/cmと液体中のイオンと同程度以上に伝導する.1)可動イオンとして,銀イオンだけでなく,銅イオン,2),3)ナトリウムイオン,4)-6)リチウムイオン7),8)や多価の陽イオン,9)さらに酸化物イオン,フッ素イオンといった陰イオン10)が導電する導電体など,現在でも多くの材料が研究されている.固体イオン導電体のおもしろさは,イオンが固体中をまるで液体の中のように移動できることである.この現象は,結晶性材料だけでなく,非晶質材料のガラス,ポリマーにおいても観測されている.しかし,この固体内で起こる高速イオン移動現象がどのような微視的過程を経て起こるのかなど,基礎科学的研究はまだ不十分であり,電気化学,固体化学,物理といった分野での理解を必要としている.一般に固体電解質は,イオン導電体として研究されており,電池の電解質だけでなく,各種センサーなどにも応用されている.近年,持続可能な社会を目指して,化石燃料を極力使わない環境にやさしい製品開発が活発である.その1つとしてハイブリッド自動車や電気自動車がある.現在の車載用蓄電池の性能では1回の充電で走れる航続距離が短いのが問題となっている.そのため航続距離を長くするエネルギー密度の高い蓄電池開発が熱望されている.現在,その有望な電池システムとしてはリチウムイオン二次電池が1つの候補であり,高出力,高エネルギー密度化を目指して研究されている.しかし,高い性能を求めると安全性が問題となる.記憶に新しいところ日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)として,飛行機に搭載されたリチウムイオン二次電池の発煙事故が発生した.11)これは電池に流入する電流値が異常になるなどの理由で電池内部が高温になり熱暴走という状態になったためと考えられている.市販のリチウムイオン二次電池では,有機溶媒系の電解液が用いられており,熱暴走すると内部の有機溶媒電解液が急激に高温に加熱され燃焼してしまう危険性が指摘されている.そのため電池システムにはさまざまな安全装置を組み込むことで安全を担保しているため,事故になることは稀であるが,携帯電話やパソコンに搭載されている電池からの発煙・発火事故は少なからず発生している.より安全性を高めるためにも,不燃性の固体電解質の開発が急務となっている.しかし,これまで多くの研究がなされてきているがリチウムイオンの固体電解質のイオン導電率は,銀イオンや銅イオンに比べて非常に低い.本記事では,固体電解質として主にリチウムイオン導電体を取り扱い,結晶性のリチウムイオン導電体の研究の歴史を概観する.そして,非常にパワフルな結晶学ソフトウェアが,最近発見されたイオン導電率が液体系電解質に匹敵する新規超リチウムイオン導電体,Li 4-xGe 4+ 1-xP 5+ xS 4の一般式で表せるLGPS系という物質群の未知構造解析およびイオンの導電経路を推測するのに役立った研究例を紹介する.2.リチウムイオン導電体(固体電解質)イオン導電体においては,これまでガラスと結晶のイオン導電体が多数研究されてきた.しかし,それらガラスと結晶性のイオン導電体では材料設計がまったく異なる.ガラス系では,その構造を乱れさせることでイオン導電性を向上させる.その一方で,結晶性材料ではイオン導電により適した構造を構築することでイオン導79