ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

クリスタリットDarwinの式Darwin’s Formula結晶にX線を入射した際に得られる回折強度の強さを表現した式(C. G. Darwin: Philos. Mag. 27, 315-333(1914)).以下は学会誌本文,参考文献中にあるJamesHoltonらの論文(Acta Cryst. D66, 393-408(2010))に掲載されている式だがDarwin式に基づいたものである.I = 2I r V xtalLV?λbeam eωVP?A?Fcellcell日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)3Iは積分されるスポットの強度,I beamは入射X線の強さ,r eは古典的電子半径,V xtalはX線に照らされる結晶の体積,V cellは結晶格子体積,λはX線の波長,ωは結晶回転速度,Lはロレンツ因子,Pは偏光因子,Aは吸収補正因子,Fは結晶構造因子.この式より回折強度測定の際の種々の実験条件の検討を行うことが可能となる.(理化学研究所・放射光科学総合研究センター,JST/CRESTパルスセレクタPulse Selector2平田邦生)ここでは,SACLA共同利用ビームラインで利用できる回転式シャッターのことを指している.8個の開口をもつ回転シリンダーをクローズドループのステッピングモーターで制御しており真空中で動作可能である.最大60 HzでやってくるXFELのパルスを加速器のトリガー信号と同期させることにより“選んで”切り出すことが可能である.(理化学研究所・放射光科学総合研究センター,JST/CREST平田邦生)De Wolff Figure of Merit粉末指数付けにおいて得られた格子定数A,Bのどちらが本当の解としてより確からしいかの判定に頻用されるde Wolff figure of merit(通常M nと表記される)は,obQ s n /2Nを以下の〈δ〉で割った値として定義される1):1δ=∑n obs cal=Q ? Qi 1 i i,nQob si:粉末回折パターンに見出される回折ピークのq値(=格子面間隔dの-2乗),caQ li:格子定数から計算される回折ピークのq値のうち,obQ siに最も値の近いものの値,N:格子定数から計算される回折ピークのq値のうちobsQ n以下となるものの個数.値が「一致する」注)q値注)「一致する」かどうかは,プログラム内で格子定数を表現する型(整数型or実数型,単精度or倍精度)に依存するが,de Wolffが関与したプログラムItoは10 -4 A -2刻みの整数型を用いている.は,まとめて一個として数える.M nは,より解として確からしい格子がより大きな値をとり,観測値と計算値の関係性が特に見出されなければ1に近い値をとるよう定義されている.特性X線の粉末回折パターンで10以上の値を取る格子定数はかなり信頼性が高いとされているが,ピーク位置の精度が高いデータにおいてはこの限りではない.そのほかに,対称性が高い格子のほうがより大きい値をとりやすい,消滅則の影響は受けにくいが指数が付かないピーク(不純物ピークなど)があると値が小さくなりやすい,などの性質をもつ.1)P. M. de Wolff: J. Appl. Cryst. 1, 108(1968).(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所/JSTさきがけ富安亮子)Dominant Zone格子定数を,結晶学で標準と定められたNiggli簡約系で表したとき,c≪a,b(cがa,bと比べてかなり小さい)とする.このとき,逆格子定数においてはa*,b*≪c*となり,格子面間隔の大きい順に並べたときの上位の回折ピークは,指数が[hk0]のものに占有されている.そのため,粉末指数付けやfigure of merit(上記の項目を参照)の計算のために入力された粉末回折ピーク位置(通常30個程度)のほとんどが指数[hk0]に対応するという状況がきわめて起こりやすい.指数[hk0]のピーク座標は逆格子定数c*,α*,β*から独立に定まる値であるため,正しい格子定数が得られなかったり,FOMによる解の判別がうまく行われなかったりすることの原因となる.この問題は,dominant zone problemとして知られる.(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所/JSTさきがけ富安亮子)Geometrical Ambiguity格子Aが,ある異なる格子Bと,すべての格子面間隔が完全に一致することがある.このとき,AとBの粉末回折パターンのピーク位置は完全に一致するため,結晶格子Aの粉末回折パターンの指数付けの解として,A,Bの両方が発生し得るが,このことを指してgeometricalambiguityと呼ぶ.Aが立方晶,六方晶または三方晶ならば,上記のようなBは常に存在する.1)また,まれに,A,Bの両方が低対称の場合でも同様の状況が生じることがあるが,上記の対称性の高い場合と異なり,A,Bがお互いのderivative(すなわち,共通の超格子Cに含まれる)になるとは限らない.2)1)A. D. Mighell and A. Santoro: J. Appl. Cryst. 8, 372(1975).2)R. Oishi-Tomiyasu: J. Appl. Cryst. 47, 2055(2014).139