ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

クリスタリット仮定したときの計算値をQ singleとすると,次式が成り立つ.Q model(hkl)=(1-2x) Q single(hkl)測定値Q obsがQ modelに対応するので,横軸をQ singleとし,縦軸をQ obsとして,各フリーデル対のデータをプロットし,それらを通る直線を最小二乗法で求めることで,その傾き1-2x(およびその偏差)が得られる.(慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂)CRISPR-CasシステムCRISPR-Cas SystemCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromicrepeat)-Cas(CRISPR-associated)システムは原核生物のもつ獲得免疫機構であり,外来核酸からの防御機構としてはたらく.原核生物のゲノムにはCRISPRアレイとCasオペロンからなるCRISPR領域が存在する.CRISPRアレイはcrRNA(CRISPR RNA)をコードし,CasオペロンはCasタンパク質群をコードしている.crRNAは特定のCasタンパク質と複合体を形成し,Cas-crRNA複合体はcrRNAと配列相補性をもつ標的核酸を認識し切断する.crRNAのもつガイド配列は過去に感染した外来核酸に由来するため,crRNAは分子記憶として働き外来核酸の再感染を防ぐ.CRISPR-Casシステムは関与するCasタンパク質群,crRNA生合成機構や核酸分解機構の違いに基づきI~III型に分類される.(東京大学大学院理学系研究科西増弘志)ゲノム編集Genome Editing生物はゲノムに生じた2本鎖DNA切断を修復する機構をもち,その修復過程において塩基の挿入や欠失などのエラーが偶発的に起こる.高い選択性をもつDNA切断酵素(人工ヌクレアーゼ)を用いてゲノムDNA中の標的部位に人為的に2本鎖DNA切断を引き起こし,その修復過程に生じるエラーを利用することによりゲノム情報を書き変える技術はゲノム編集と呼ばれる.近年,Cas9を用いたゲノム編集技術は生命科学に革命を巻き起こしている.(東京大学大学院理学系研究科西増弘志)転写活性化因子Transcriptional Activator転写活性化因子はDNA結合ドメインと転写活性化ドメインからなる.転写活性化因子がDNA結合ドメインを介して標的遺伝子のプロモーター領域に結合すると,転写活性化ドメインを介して転写共役因子やクロマチンリモデリング因子が呼び寄せられる.その結果,RNAポリラーゼにより標的遺伝子が転写される.(東京大学大学院理学系研究科西増弘志)日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)補因子Cofactorタンパク質が機能を発揮するために結合している,ポリペプチド鎖以外の小分子や金属イオンなどのこと.タンパク質に緩く結合して反応に寄与する補酵素および,タンパク質に常に結合して構成成分の一部としてはたらく補欠分子族に大きく分けられる.補因子はタンパク質中の適切な位置に結合し,周りの環境が整えられることで,その役割を果たすことができる.例えば,光合成のアンテナ系では多数のクロロフィルやカロテノイドといった太陽光を吸収することのできる色素分子が適切に配置されて複雑な分子集合体を形成し,光吸収や励起エネルギー移動,光防御といった機能を果たしている.(京都大学大学院理学研究科丹羽智美)スペシャルペアSpecial Pair光化学系の反応中心にあるクロロフィル(またはバクテリオクロロフィル)の二量体のこと.クロリン環部分を半分だけ中表に重ねて,ほぼ平行に近接した配置をとっている.このため,Q y遷移が単量体より長波長側にシフトしている.スペシャルペアはアンテナ系から光エネルギーを受け取って励起し,電荷分離反応を起こす.電荷分離反応を行うクロロフィルが二量体を形成していることは,早くから電子スピン共鳴(ESR)などによる分光分析から推測されており,スペシャルペアの構造モデルもいくつか提案されていた.その後,紅色光合成細菌の反応中心複合体の結晶構造解析の成功により初めてその正確な構造が明らかになった.(京都大学大学院理学研究科丹羽智美)メカノクロミズムMechanochromism結晶をすり潰したり,表面をこすったりする機械的な刺激で物質の色や発光色が可逆的に変化する現象.摩擦などの機械的刺激による色変化という意味では,トリボクロミズムもほぼ同義で使われている.また,類似の現象として,圧力下でのクロミック現象を指すピエゾクロミズムもある.メカノクロミズムのメカニズムはさまざまあるが,機械的な刺激により結晶構造や分子構造の変化が誘起されて色変化が起こることが多く,その中には,結晶溶媒や揮発性物質の遊離に基づく場合も含まれる.メカノクロミズム示す物質は,歪みの可視化や,圧力センサー,ダメージセンサーなどのセンサー材料への応用が期待されている.(北海道大学大学院理学研究院化学部門加藤昌子)137