ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

日本結晶学会誌57,129-130(2015)ソフトウェア情報欄粉末指数付けソフトウェアCONOGRAPH高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所/JSTさきがけ富安亮子ヴィジブルインフォメーションセンター田村智志Ryoko OISHI-TOMIYASU and Satoshi TAMURA: New Powder Autoindexing SoftwareCONOGRAPHプログラム名:CONOGRAPH(コノグラフ)作成者:富安亮子,田村智志Win OS:Vista,7,8Mac OS:Mountain Lion(10.8),Mavericks(10.9)使用言語:C++,OpenMP(Core program),C#,C++/CLI(Win GUI),C++,Objective-C(Mac GUI)連絡先:conograph-bugs@ml.post.kek.jp入手方法:http://research.kek.jp/people/rtomi/ConographGUI/web_page.html(Win),https://z-code.kek.jp/zrg/(Mac)1.はじめにこの記事では粉末指数付けソフトウェアCONOGRAPHの紹介をさせていただく.粉末指数付けとは,粉末回折パターンからの格子定数の決定に要する一連の解析を指す.CONOGRAPHにおいてはピークサーチ,粉末指数付けの実行ボタンを一度ずつ押すことで達成されるこの解析は,1ピークサーチ,2格子定数の探索,3ブラベー格子決定,4格子定数のソートの4ステージに大別できる.通常2で複数の格子定数の候補が得られるため,4のソートが必要となる.また,既存ソフトウェアの多数は,7つの晶系それぞれに対し2の探索を行うが,CONOGRAPHでは,2の実行後に高速ブラベー格子決定を行い,2のアルゴリズムを簡易化している.新ソフトウェア開発に先立って,特に2,3について理論開発から行い,観測誤差への安定性と計算速度の両面で大幅な改善を得ることに成功した.1),2)1については,論文にする予定は現在のところ特にないが,解析手順とアルゴリズムの簡易化に加え,結果も改善できたため,何かの役に立てばとオープンソースで配布している.以下は既存ソフトウェアにないCONOGRAPHの特徴である:(a)すべての消滅則に対し探索手法の有効性が示されている.3)(b)ピークサーチで得られたピーク位置の誤差にロバストである.特に1°以下のゼロ点シフトであれば問題日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)なく解が得られている.(c)より低角(格子面間隔の大きい)にあるピークの位置情報が欠損している場合にきわめて有効である(19本のピークが欠損した極端な事例でも成功している).(d)入力されたピーク位置座標の数が30以下ならば徹注底探索は1分程度)で終了し,きわめて高速である.さらに,多数のピーク位置を使用した場合でも計算時間が発散しない工夫がされている.(e)粉末指数付けの知られた問題であるdominant zone,geometrical ambiguityに有効な対応策を与えた(節2,3).(f)4のソートで標準的に使用されるde Wolff figure of merit(FOM)4)に対し数値安定性を増す工夫を行った.5)項目(c)は,中性子飛行時間法の粉末データの解析において特に有効だが,X線のデータでも消滅則その他の理由で同様の現象が生じることがある.項目(d)について,難しいケースではより多くのピーク(40~50以上)を探索に使用すること,また,多数の解が生成される場合は省メモリ探索を使用することを推注奨しており,この場合,最大で10分前後)の時間がかかることもある.多くのピークを使用することで指数付けの成功確率が上昇することはさまざまな理由があるが,最もわかりやすいdominant zoneと呼ばれるケース6)において,多数のピークを使用することがなぜきわめて有効であるのか,節2で解説する.項目(e)のgeometrical ambiguityは,dominant zone以上にほとんど注目されてきておらず,これに対応した粉末指数付け手法・ソフトウェアは,CONOGRAPHが初めてである.具体的なその対応策を節3で説明する.最後に,CONOGRAPHの開発は,著者らと結晶構造解析の専門家の協力の下で進められた.今後も新たな数学の応用事例が得られることを期待している.注)Intel R Core? i7 Processor(3.2 GHz)8スレッド使用時.2.Dominant zone problemへの対応図1に示すように,格子定数a,b,cのスケールがかな129