ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

平田邦生,伊藤(新澤)恭子,上野剛,山本雅貴,吾郷日出夫られる構造の精度に問題がないと判断した.この時,結晶のモザイク角が0.4°程度であったため,われわれはモザイク角の半分程度のステップ角度を選択すれば原子分解能かつ精密構造解析が可能であると判断した.実際には,凍結CcO結晶を用いてSACLAで収集したいくつかの結晶の平均的なモザイク角が0.3°程度であったためその半分よりも小さな0.1°というステップ角度を選定し静止写真のデータ収集を行った.この方法はIlme Schlichting 11)によりSFX(Serial Femto-secondCrystallography)と区別化するために「Serial FemtosecondRotation Crystallography(以下SF-ROX)」と命名された.2.5 SACLAで実施した測定と得られたデータ精度測定の手順を簡単に以下に記す.凍結CcO結晶をゴニオメータにマウントし,結晶の最も広い面をXFEL光軸に垂直にし,この角度を0°とした.複数結晶からデータ収集をすることが前提であったので,結晶マウント後この作業を必ず行い,0~135°分のデータを収集することを目指した.露光点間の距離50ミクロン,静止写真のステップ角度0.1°で測定を行った.CcO結晶は平均的な結晶サイズは500×500×100~200ミクロン程度であったため,多いものだと1結晶から100枚程度(約10°分)の角度が連続する回折イメージが取得可能であった.最終的に76個の結晶を用いておおよそ135°分のデータを収集することができた.それぞれの結晶についてはCCP4プログラムであるMOSFLMを用いて指数付け,各イメージ上に観測された反射強度の積分を行った.1,170枚の回折イメージから最終的には表2に示す統計値のデータを得ることができた.2.6無損傷構造解析の結果明らかになった配位子の構造上記のような回折実験により得られたデータを用いてCcOの構造解析を行った.精密化に関する情報は表2にまとめた.余談になるが冗長度に関して,SF-ROXの場合には「部分反射強度を足しあわせた後の完全反射強度としての冗長度」であって,従来の振動写真法で評価する“冗長度”と同じである.いわゆるSFXのモンテカルロ積分データのそれ(部分反射強度も“1個”と数えた反射の数)とは厳密には定義が異なっている.さて今回の目的であった配位子の構造についてはまず酸素還元中心の電子密度図を2F o-F cマップにより確認した.配位子はこれまでのCcO酸化型構造と同様,Fe a3-Cu Bの間に存在しており特に大きな構造変化は認められなかった.定量的に配位子の結合長を検討するためにわれわれはここに酸素原子が2個存在することを前提とし,その結合長に通常精密化時に利用する束縛条件を適用しないで(un-restrained)原子座標の精密化を行った.un-restrained精密化後の酸素原子間距離は1.7 Aとなった.同じ精密化をシンクロトロンビームラインBL44XUと400個以上の結晶から得たデータに適用する表2と1.9 Aであり,4)その数値よりも0.2 A短いものとなった.さらに電子密度図に基づき酸素化合物の結合距離を決定するために,今度は逆に配位子の酸素間の結合距離に0.1 Aずつ1.2 A(分子状酸素)~1.8 Aという束縛条件を与えて構造精密化を行い,得られた構造因子を用いてF o-F cマップを比較した.この結果,酸素結合距離が1.5 Aと1.6 Aの結合長のときに残余電子密度の量が最も減少して見えることがわかったため,酸化型CcO中の配位子結合距離が1.55 Aであるとして精密化を行い最終構造とし,配位子の化学種が過酸化物イオンであると結論づけた.ほかにもこれまでの高分解能構造解析において放射線損傷が増えると高くなる水分子の電子密度の評価からも得られた構造が無損傷であるという確証を得ることができた.14)3.考察データ処理の結果および精密化の結果.(Datastatistics and refinement results.)*()内に最外殻の情報を記載.Data collection/processingSpace groupP2 12 12 1Celldimensionsa,b,c(標準偏差)182.60(0.38),204.51(0.55),178.29(0.46)Resolution*27.33-1.90(2.00-1.90)Observedreflections*1,903,997(256,844)Independentreflections*500,669(71,920)Averagedredundancy*3.8(3.6)<I/σI>*6.7(2.1)Completeness(%)*96.2(95.1)*Rmerge0.243(0.408)CC*1/20.872(0.583)RefinementResolution27.33-1.90No. of reflections(all/free)473,986/25,158R/R free0.195/0.230R.m.s.deviationsBond length(A)0.027Bond angles(degrees)2.333.1結晶サイズと分解能についての考察冒頭でも述べたが今回最も重要な目的は「無損傷かつ高分解能」のタンパク質結晶構造解析であった.結果として大きな凍結結晶を用いるメリットは十分あったと考えている.実験に利用する結晶サイズと分解能の関係について今回の実験結果を踏まえて少し考察しておきたい.X線検出器で観測できる回折強度と実験に用いるパラメータの関係を示したDarwinの式がある.16)この式から,回折強度はX線で照らされた結晶体積に含まれる単位格子の数に比例し,結晶の体積が大きいほど得られる強度シグナルは強くなることがわかる(直感的にも正しい).次にCcOの場合には結晶格子体積はおよそ6 MA 3となっており,例えばニワトリ卵白リゾチームの126日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)