ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

X線自由電子レーザーを利用したタンパク質高分解能無損傷構造解析2.4静止回折像を収集する条件決定2つ目の実験パラメータ「照射点間の回転角度」についてわれわれが実験を行う前にどのようなことを検討したかについて簡単に触れておきたい.シンクロトロン放射光を用いた結晶構造解析では回折データ収集の際にいわゆる“振動写真法”と呼ばれる測定方法を用いる.この方法ではタンパク質結晶を回転させながらX線を照射し1枚の回折イメージを得る.回折イメージ上に観測されるある反射強度に注目すると回転方向に強度プロファイルをもっており(以下ロッキングカーブ)1枚の回折イメージ上に観測される強度は図4に示したように全体の強度(完全反射強度)の一部である(部分反射強度)場合が多い.データ収集時には結晶は連続した回転角度をカバーするように多数の回折イメージを取得するので,最終的にはそれぞれのイメージ上に観測された部分反射強度をすべて足し合わせたものをその反射の回折強度(完全反射強度)として取り扱う.ところが,フェムト秒パルスX線を照射している間に図4従来法(振動X線回折)とSALCAで利用している方法(静止X線回折)の違い.(Rocking curves inrotation method and still method.)振動X線回折では結晶を回転させながら回折強度(ロッキングカーブ)を得る(左).一方,静止X線回折ではロッキングカーブを複数の固定角度でサンプリングした強度を得る(右).結晶を回転させることは(今のところ)装置の制限から不可能であるため,SACLAでは従来の振動写真法を用いることはできない.このため結晶をある角度に固定しX線を照射・回折イメージを取得する“静止写真法”を用いなければならない.図4右に静止写真法を用いた測定についての概略図を示した.回折強度を不連続にサンプリングするため,得られた強度を足し合わせても全体の強度を得ることができない.もちろん,この角度ステップを小さくしていけば正確に反射強度を測定することはできるが,構造解析のために集めなければならない回折イメージのフレーム数は増える.特に今回の測定のように1イメージごとに無損傷な結晶体積へXFELを照射しなければならない実験では必要フレーム数の増加は,利用する結晶数の増加,測定時間の増大につながるため非効率的であると判断した.われわれはシンクロトロン放射光を用いた静止写真法のデータ測定により,どの程度の角度ステップであれば原子分解能で精密な構造解析が可能であるかを検討した.まず,ニワトリ卵白リゾチームの凍結結晶を用いて,SPring-8偏光電磁石ビームラインBL26B2において振動写真法により取得したデータセット,また同じ結晶から角度ステップ0.05°,総データがカバーする結晶回転角度が90°の静止写真法により取得したデータセットを準備した.前者のデータを用いて構造精密化を行ったリゾチームの原子座標を「正しい構造」として取り扱った.同様に角度ステップ0.05°の静止写真法データについても振動写真法により得られたものとしてMOSFLMにより積分し構造解析を行った.さらに,同じデータセットを1枚ごと,2枚ごと,3枚ごと,と飛ばして作成した仮想的な0.10°,0.15°,0.20°ステップの静止写真データセットを用いて,それぞれMOSFLMで積分・構造解析を行った.表1にこの結果を示した.それぞれから得られた構造因子を用いて構造の精密化を行った後,信頼度因子(R-factor)や正しい構造との座標の違いを評価した.結果として,0.2°ステップの静止写真法であれば得表1静止写真法で収集したデータを用いた精密化の妥当性評価.(Evaluation of precision of structure factors obtainedby various oscillation steps of still method.)同じニワトリ卵白リゾチームの結晶から0.05°振動写真法および0.05°静止写真法で回折データを収集した.0.10°,0.20°ステップの静止写真データは0.05°静止写真法のデータを間引いて仮想的に作製し,各データを独立のものとしてMOSFLM/SCALAで処理してPDBID:1LZCのリゾチームを初期モデルとして座標・温度因子の精密化を行った.原子座標のrmsd(平均二乗偏差)の計算では0.05°振動写真法で得られたデータで精密化した座標に対して,各データで精密化した座標を用いて評価した.C.C.は精密化で得られた最終モデルとマップとの相関係数(phenix.get_cc_mtz_pdbを用いて計算)を示している.ステップR mergeR free/R r.m.s.d.反射数<I/σI>[deg.][%][%][A]C.C.0.05(rot)110,52835.0(10.8)3.5(16.1)18.6/16.8-0.8910.05110,93126.3(3.9)5.2(46.5)20.5/17.10.0310.8990.10111,57721.2(4.6)6.0(39.4)19.8/17.00.0330.9000.20109,08211.0(3.4)10.8(51.5)20.2/17.40.0330.897日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)125