ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

日本結晶学会誌57,116-121(2015)最近の研究から四面体最密充填構造をもつシリカメソ多孔体の構造解析JSTさきがけ,大阪大学大学院理学研究科物理学専攻阪本康弘Yasuhiro SAKAMOTO: Structural Characterization of Mesoporous Silicas withTetrahedrally Close-packed StructuresCage-type mesoporous silicas display rich structural diversity. Among them, cage-typemesoporous silicas with tetrahedrally close-packed(TCP)structures can be described by fourtypes of polyhedron, 5 12 , 5 12 6 2 , 5 12 6 3 , and 5 12 6 4 . We have investigated(i)the Fm3 _ m-Fd3 _ _ m typeintergrowth and(ii)several types of stacking fault in the Fd3 m structure using transmission electronmicroscopy(TEM). The stacking faults can be explained by the stacking of three kinds of layer basedon a description of the polyhedra. We have also observed that(iii)one of new stacking sequences,with a large repeating unit, contains these three layers and bears a close resemblance to one of theFrank-Kasper phases with rhombohedral symmetry known as m-phase.1.はじめにシリカメソ多孔体は,アモルファスシリカを骨格とした構造中に規則的に配列したメソ孔(2~50 nm)を特徴とし,狭い細孔径分布と高い比表面積を有する物質として,ゼオライトなどのミクロ孔(2 nm以下)をもつ物質と同様,触媒や吸着剤などの分野でこれまで研究されてきた.さらに近年は細孔径の正確な制御と細孔表面の機能化により,目的に合わせ薬剤や生理活性物質の放出挙動を制御できる材料としても注目されている.シリカメソ多孔体の歴史は,1990年代初め柳沢と黒田ら(早稲田大学)が,界面活性剤を層状ケイ酸塩鉱物の層間にインターカレイトさせることによって,メソスケールの周期性をもつ有機無機複合体を作製したことに始まる.1)この研究はその後,黒田(早稲田大学)と稲垣(豊田中央研究所)らによってFSM-16と呼ばれるシ2リカメソ多孔体の合成)へと至り,後述するアモルファスシリカを原料として用いたシリカメソ多孔体とは異なった性質をもつ物質として研究が進められている.また,それとは独立にアメリカのMobil社(現在のExxonMobil社)のグループはシリカ源としてアモルファスシリカを用い同様な周期性をもつシリカメソ多孔体を作製した.3),4)この発見をきっかけにシリカメソ多孔体はより多くの注目を浴びることになった.シリカメソ多孔体を利用する上で,その構造の正確な評価は不可欠となる.ところがシリカメソ多孔体は,メソスケールでは周期性をもつが,原子スケールではアモルファスという構造の特異性から,従来のX線を用いた原子座標を精密化していくような構造評価法は十_分な偉力を発揮しない.図1aに立方晶Pm3 n構造をもつ図1 Pm3 _ n構造をもつシリカメソ多孔体SBA-1の(a)粉末X線回折パターンと,(b)TEM像([001]入射)およびフーリエ回折図形.(Powder X-ray diffractionpattern(a)and TEM image with Fourier diffractogram_(b)of mesoporous silica SBA-1 with Pm3 n structure.)シリカメソ多孔体SBA-1 5)-7)の粉末X線回折パターン(CuKa線)を示す.低散乱角側に数本の反射と,高散乱角側に散漫散乱が観測されるのみである.このような粉末XRDパターンのみからシリカメソ多孔体の構造を決めることは到底不可能である.その点で透過電子顕微鏡(TEM)像は,図1bに示すように実空間の構造情報を直接与えるため,現在,シリカメソ多孔体の構造評価を行う上で不可欠なものとなっている.特に,電子線結晶学(electron crystallography)を用いた三次元構造の再構築法は,シリカメソ多孔体の細孔構造に関する情報を得るための非常に強力な手段である.5),8)-15)本解説ではシリカメソ多孔体の中でも四面体最密充填(TCP:tetrahedrally close-packed)構造をもつケージ型シリカメソ多孔体の構造多形についてTEM法と多面体記_述法により評価を行った例を紹介する.特にFd3 m構造をもつケージ型シリカメソ多孔体とその構造多形は多面116日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)