ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

ページ
45/86

このページは 日本結晶学会誌Vol57No2 の電子ブックに掲載されている45ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No2

発光性クロミック銅(I)錯体図13原料のすり潰しにより生成する高発光性単核銅(Ⅰ)錯体[CuI(PPh 3)2(isoquinoline)].26)(Highlyluminescent mononuclear Cu(I)complex generatedby the mechanical grinding of materials.)の発光は,四核クラスターと同様クラスター中心の励起状態に由来する3 CC発光と帰属でき,発光色変化は,3MLCT(+3 XLCT)発光と3 CC発光の切り替えにより起こると結論づけられた.本系は,両座配位子の光誘起構造変換により異なる励起状態からの発光のスイッチングを実現した初めての例として特筆される.4.2すり潰しで生成する強発光性単核銅(Ⅰ)錯体置換活性な銅(Ⅰ)錯体は,条件によりさまざまな構造が形成され,構造多様性ゆえに構造制御には精密な条件制御が必要である.この意味においてハライド銅(Ⅰ)単核錯体は単離が困難で,これまでほとんど注目されてこなかったが,筆者らは最近,高発光性(?=0.6~0.9)を示す一連の銅(Ⅰ)単核錯体,[CuI(PPh 3)2L](L=N-ヘテロ芳香族化合物)を見出した.26)興味深い点は,これらの錯体が原料のヨウ化銅(Ⅰ)と配位子のトリフェニルホスフィンおよびN-ヘテロ芳香族化合物をすり潰すだけで,高純度,高収率で容易に得られることである.溶液中では二量化などが起こるため,単核錯体を純度よく得るには不適当で,むしろ無溶媒であることが重要な条件であったと考えられる.図13に,L=イソキノリンの例を示す.原料はすべて発光を示さないが,これらをすり潰しながら数分混合すると,緑色に強く発光する生成物が得られ,単核錯体[CuI(PPh 3)2L]であることが明らかになった.溶液中では一部配位子の解離などが起こって発光しなくなるが,再度溶媒を取り除くと再生しうることから,クロミック発光の新たな例としても注目される.加えて,これは,溶媒を用いない環境負荷の少ない合成法で安価な強発光性化合物が得られる非常に興味深い例とみなすことができる.5.おわりに発光性銅(Ⅰ)錯体の研究は今まさに活発に行われており,本稿では誌面の関係で割愛したクロミック錯体例も少なくない.平面形三核クラスターや配位高分子系など興味深い錯体系はまだいろいろあり,クロミック現象としても紹介した以外に,ソルバトクロミズムや種々の日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)外部刺激が組み合わさって起こるマルチクロミズムの例も報告されている.なんといっても発光量子収率0.5以上の高発光が比較的容易に得られることが銅(Ⅰ)錯体の魅力である.従来の発光性貴金属錯体とは異なる,それほど重くない3d遷移金属の特性をさらに活かした発光性クロミック材料・物質の創成が今後ますます面白くなってくるであろう.謝辞本稿で筆者らの研究として紹介した研究については,多くの共同研究者の努力の賜物であり心よりお礼申し上げる.特に,小林厚志博士および大原裕樹博士は研究の進展に中心的役割を果たし,その多大なる貢献に対して,ここに名前を挙げて謝意を表するものである.文献1)H. Yersin, et al.: Coord. Chem. Rev. 255, 2622(2011).2)N. Robertson: ChemSusChem. 1, 977(2008).3)N. Armaroli: Chem. Soc. Rev. 30, 113(2001).4)V. W. -W. Yam, et al.: Chem. Soc. Rev. 28, 323(1999).5)P. C. Ford, E. Cariati and J. Bourassa: Chem. Rev. 99, 3625(1999).6)A. Lavie-Cambot, et al.: Coord. Chem. Rev. 252, 2572(2008).7)D. G. Cuttell, et al.: J. Am. Chem. Soc. 124, 6(2002).8)S. B. Harkins and J. C. Peters: J. Am. Chem. Soc. 127, 2030(2005).9)H. Yersin, et al.: Inorg. Chem. 50, 8293(2011).10)Q. Zhang, et al.: J. Am. Chem. Soc. 134, 14706(2012).11)H. Ohara, et al.: Dalton Trans. 43, 17317(2014).12)R. Langer: Eur. J. Inorg. Chem. 3623(2013).13)K. Tsuge: Chem. Lett. 42, 204(2013).14)K. J. Lotitoz and J. C. Peters: Chem. Commun. 46, 3690(2010).15)N. Hashimoto, et al.: J. Am. Chem. Soc. 133, 10348(2011).16)S. Perruchas, et al.: Inorg. Chem. 50, 10682(2011).17)H. Kitagawa, et al.: Chem. Commun. 46, 6302(2010).18)S. Perruchas, et al.: J. Am. Chem. Soc. 132, 10967(2010).19)Q. Benito, et al.: J. Am. Chem. Soc. 136, 11311(2014).20)H. Ito, et al.: J. Am. Chem. Soc. 130, 10044(2008).21)A. Kobayashi, et al.: Eur. J. Inorg. Chem. 2465(2010).22)T. Ohba, et al.: Dalton Trans. 42, 5514(2013).23)A. Kobayashi and M. Kato: Eur. J. Inorg. Chem. 4469(2014).24)E. Cariati, et al.: Chem. Mater. 12, 3385(2000).25)A. Kobayashi, et al.: Inorg. Chem. 52, 13188(2013).26)H. Ohara, et al.: Chem. Lett. 43, 1324(2014).プロフィール加藤昌子Masako KATODepartment of Chemistry, Faculty of Science,Hokkaido University〒060-0810北海道札幌市北区北10条西8丁目North-10 West-8, Kita-Ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japane-mail: mkato@sci.hokudai.ac.jp最終学歴:理学博士専門分野:錯体化学,光化学現在の研究テーマ:光機能性金属錯体の創成115