ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

発光性クロミック銅(I)錯体図6四核クラスター結晶1G uncrushed,すり潰した試料1C crushed,およびエタノールから再結晶した試料1C recrystallizedの粉末X線回折データ.(PXRD data of the tetranuclear cluster before and aftergrinding, and after recrystallization in ethanol.)図8蒸気による構造変換が誘起される(a)階段状ポリマー構造[CuI(4-pic)]∞と(b)四核クラスター[Cu 4I 4(4-pic)4]の構造.23)(Structures of(a)[CuI(4-pic)]∞and(b)[Cu 4I 4(4-pic)4]which can bemutually transformed by vapor.)に,ペンタン蒸気にさらすと,黄色から青色発光に変化するベイポクロミズムを見出している(図7).24)このベイポクロミック発光は,無限構造[CuI(4-pic)]∞と四核クラスター[Cu 4I 4(4-pic)4]と間での異性化(構造変換)が蒸気や液滴により誘起されることで発現する(図8).四核クラスター[Cu 4I 4(4-pic)4]は,前述の例と同様に,室温では3 CC状態由来の低エネルギー発光を示すが,階段状ポリマー構造の[CuI(4-pic)]∞では,3 CC状態はなく,3 XLCT状態からの青色発光のみが生じる.これが発光色変化の由来である.4.銅(Ⅰ)二核・単核錯体のクロミック発光図7トルエンに誘起される[CuI(4-pic)]∞の発光スペクトル変化.23)(Toluene-induced luminescence spectralchanges of[CuI(4-pic)]∞.)示し,より強いCu…Cu相互作用をもつ骨格の1Yは3 CC状態由来の発光を示す.このことから,すり潰すとクラスター骨格の歪みが起こり,1Yと類似したCu…Cu相互作用が生じると推定されている.3.3ベイポクロミック発光前節のすり潰したアモルファス試料は再結晶で緑色発光を示す結晶に戻ることが報告されている.結晶構造の再構築はエタノール蒸気によっても起こり,これはベイポクロミック現象として白金(Ⅱ)錯体などの集積発光系ではしばしば見出されて興味深い現象である.23)しかし,キュバン型{Cu 4I 4}コアをもつ四核クラスターでは,クラスター特有の構造変換に基づく特徴的なベイポクロミズムが報告されている.Fordらのグループでは,比較的早い時期に,[CuI(4-pic)]∞(4-pic=4-picoline)の固体試料をトルエン蒸気にさらすと,発光色が青色から黄色に変化し,黄色発光を示す四核クラスター[Cu 4I 4(4-pic)4]日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)4.1光と蒸気で発光変化-フォトクロミック発光前述のとおり,キュバン型四核クラスター[Cu 4X 4L 4](図1F)は,ハライド架橋銅(Ⅰ)錯体の中で最も安定な骨格として発光特性の研究も種々行われている.しかし,発光材料としてはより分子量が低く,蒸着可能な揮発性をもつ系や,塗布に適する溶解性に優れた物質が求められる.このような観点から,二核錯体や単核錯体の発光性開発が急速に進んでいるが,クロミック特性に関する研究はまだわずかな例に限られている.ハライド架橋銅(Ⅰ)二核錯体は,配位子Lに依存して,2つの銅イオンが四配位または三配位の構造をとることにより図1C~Eのように,多様性が生じる.われわれは,この構造多様性と配位子の結合異性を利用して,ユニークなフォトクロミック発光を見出した.25)ヨウ化銅(Ⅰ)とトリフェニルホスフィンを配位性溶媒であるジメチルスルホキシド中,室温で反応させると,{Cu 2I 2}菱形コアをもつ銅(Ⅰ)二核錯体,[Cu 2(μ-I)2(dmso)2(PPh 3)2](dmso=ジメチルスルホキシド)の無色結晶が得られる.この錯体は,2つの銅イオンがともに四面体構造をとり,dmso分子は銅(Ⅰ)イオンにO原子で配位している(図113