ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

竹田一旗,丹羽智美,三木邦夫図7ユビキノンの移動Transfer経路channel.(of ubiquinone.)相互作用により,T. tepidum由来LH1-RCの高い耐熱性を説明することができる.T. tepidum由来のLH1に結合しているBChlは915 nmに吸収極大があり,880 nmに吸収をもつ他種のLH1よりも35 nmも長波長側にある.EDTAをもちいてカルシウムイオンを除去すると吸収波長は880 nmに変化し,カルシウムイオンを添加すると再び915 nmに戻る.14)カルシウムイオンにより,BChlどうしの密な重なり合いが生じて,吸収波長のシフトをもたらしていると考えられる.3.5ユビキノンの移動経路光のエネルギーによりRCのスペシャルペアから生じた電子は最終的に還元型ユビキノンとして化学エネルギーの形に変換され,LH1-RC複合体の外へと運び出される.今回決定したLH1-RC複合体の構造からは,完全に閉じたLH1リングにおけるユビキノンの移動メカニズムも考察することができた.LH1リングの隣接したαβヘテロ二量体の間には,ユビキノンの通り道となりうる隙間がみられた.この16個の隙間は,膜貫通へリックスの細胞質側に位置している.この隙間の位置は,RCのユビキノン結合部位と膜内での高さが同じである(図7).また,この隙間のサイズは,ユビキノンのベンゾキノン基とほぼ同じである.隙間の最も狭い部分はBChlやSpx,αサブユニットの疎水性残基の側鎖によって形成されていて,柔軟性が高く非常に疎水的である.LH1リングでは,ペリプラズム側に比べて,細胞質側にはサブユニット間の相互作用があまり見られない.このため,ユビキノンの通り道のある膜貫通へリックスの細胞質側のほうがより柔軟性が高いと考えられる.このようなLH1の動きがユビキノンの交換に重要であることは,以前に報告されている分光学や分子動力学による研究結果からも予想されていた.15)-17)3.6脂質分子モデルの構築を行った後にも,LH1リングとRC図8 LH1-RC複合体に結合した脂質分子の分布.(Distribution of lipid molecules bound to the LH1-RCcomplex.)脂質分子とリン酸イオンをスティックモデルとCPKモデルでそれぞれ表示した.に挟まれた隙間には,アミノ酸では説明が不可能な細長い電子密度が残った.このような電子密度は,脂質分子としてモデリングすることができた.また,いくつかの強い残余電子密度が,正電荷をもつアミノ酸の近傍にみられた.これらはリン酸イオンとして解析したが,リン脂質の一部のみが現れたものと思われる.脂質分子もリン酸イオンも,LH1リングの内側に結合していた(図8).これまでに解析されているRCにも脂質分子が結合しているが,今回のLH1-RCの構造にみられる脂質分子およびリン酸イオンの位置とよく一致していた.これらのなかには,RCとLH1の両方と相互作用している脂質分子も含まれており,LH1-RC複合体の安定化に寄与しているものと思われる.4.おわりに今回,3.0 A分解能でLH1-RC複合体の全体構造を解明できたことにより,LH1の構造をはじめ,LH1とRCの相互作用や補因子の配置を正確に決定することができた.今回の構造解析で得られた分子構造をもとにして,光合成のエネルギー伝達に関する理論的な解明が期待される.今後,分光学的な特性に影響を与える色素分子の歪を正確に決定できるレベルに座標精度を高めていきたい.さらには,クロマトフォアに埋め込まれた状態のLH1-RC複合体の構造や,ほかの光合成タンパク質との相互作用についても明らかにしていきたいと考えている.謝辞このLH1-RCの構造研究は,茨城大学理学部の大友征宇博士,于龍江博士,川上知朗氏,京都大学大学院理108日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)