ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

竹田一旗,丹羽智美,三木邦夫図3LH1-RCのX線解析における電子密度の改善の様子.(ImprovementintheelectrondensitymapofLH1-RC.)(a)補正前のマップ(1σ).(b)異方性の補正後のマップ(1σ).(c)結晶間平均化後のマップ(1σ).(d)精密化後のσA-weighted 2F obs-F calcマップ(1σ).RCの構造をサーチモデルにした分子置換法から最初の位相を得て,重原子誘導体データの重原子位置を決定した.この重原子位置をもとに改めて重原子同型置換法を行うことで,モデルバイアスのない位相情報を得た.しかしながら,回折データ強度の分布に存在する強い異方性が,電子密度にも影響を与え,膜貫通ヘリックス部分でさえ,とぎれとぎれとなってしまった(図3a).そこで,等方的になるように補正したところ,ポリペプチド鎖のつながりが向上し,すべてのヘリックスが確認できるようになった(図3b).さらに,2つの異なる空間群(P2 1およびC2)に属する合計6個のnativeデータセットを使用して結晶間平均化を行った結果,ポリペプチド部分の側鎖が認識できるようになった(図3c).この電子密度は,精密化後の構造からの位相をもちいて計算した電子密度と比べても遜色のないものであった(図3c,d).このようにして,LH1-RC複合体の構造を,多数含まれている補因子も含めて,実験的に決定した電子密度に基づいて解析することができた.11)3.構造3.1全体構造T. tepidumのLH1-RCは,RCの部分がシトクロム(Cyt),H,LおよびMの4種類のサブユニット,LH1部分がそれぞれ16個のαサブユニットとβサブユニットから構成されていた.また,BChlやバクテリオフェオフィチン(BPheo),スピリロキサンチン(Spx)などの補因子を合計で80個確認できた.RCはLH1のリングに完全に取り囲まれていた(図4a,b).LH1リングの膜貫通へリックスとRCとの間の相互作用はヘリックスの両末端,特にペリプラズム側に多くみられるが,膜貫通ヘリックスの中央部分にはほとんどみられなかった.3.2ほかのLH1-RC複合体との比較LH1リングの形状は光合成細菌の種類によって異なる.これまでに,2つのLH1-RC複合体の結晶構造が低分解能で決定されていた.4.8 A分解能で解析されているRhodopseudomonas palustris由来のLH1-RCの構造では,LH1リングは15組のαβヘテロ二量体から構成されており,protein Wという一回膜貫通型のサブユニットによりリングに切れ目が生じている(図4c).12)また,8.0 A分解能のRhodobacter sphaeroides由来のLH1-RCの構造では,14組のαβヘテロ二量体と1個のPufXサブユニットから構成されるC字型リングが,2個組み合わさってS字型の二量体を形成している(図4c).13)PufXサブユニットは2つのC字型リングの接合部分に位置している.一方,今回構造決定したT. tepidum由来LH1-RCでは,LH1リングはこれらとほぼ同じ概形とサイズであるにもかかわらず,16組のαβヘテロ二量体で構成されており,完全に閉じたリングを形成している(図4c).11)3.3補因子の配置LH1リング中では,32分子のBChlは16分子のSpxとともに楕円状の色素分子集合体を形成していた(図5a).α-His36に結合しているBChlは,α-Trp46の側鎖と水素結合を形成していた(図5b).一方,β-His36に結合しているBChlは,α-Gln28,β-Trp28およびβ-Trp45と水素結合を形成していた.BChl間の距離は,Mg原子間で測定して平均で8.75 Aであった.この値は,これまでに報告されている光合成細菌のLH1およびLH2の中では最短である.LH1のBChlは,RCのスペシャルペアBChlと膜内の同じ高さに位置する.また,α1,β1,α9およびβ9に結合しているBChlは,スペシャルペアBChlと平行である.これらの平行なBChlの位置は,分子集合体の楕円状リングの短軸からは約30°はずれている.また,スペシャルペアBChlとの間の距離は,39.4~43.5 Aである.励起エネルギー移動には,色素間の距離だけではなく配向も重要であり,これらの平行なBChlがLH1からRCへの励起エネルギー移動に重要な役割を果たしている可能性がある.3.4カルシウムイオンの結合LH1リングのペリプラズム側において,n番目のαサブユニットとn+1番目のβサブユニットが金属イオンを介して相互作用していた(図6).カルシウムのK吸収端近傍のX線(λ=2.70 Aおよびλ=3.15 A)を使用して106日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)