ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

西増弘志(a)HNHdomainRuvCdomainREC2domainREC1domain(b)HNH domainREC2domainREC1domainPI domainRuvC domainPAMPI domain(c)GGGGTTArg1335Arg1335Arg1333Arg1333図8Cas9単体とCas9-sgRNA-2本鎖DNA四者複合体の結晶構造.(CrystalstructuresofapoCas9andtheCas9-sgRNAtargetDNAquaternarycomplex.)(a)Cas9単体の結晶構造(PDBID4CMP).(b)Cas9-sgRNA-2本鎖DNA四者複合体の結晶構造(PDB ID 4UN3).(c)PAM認識機構(ステレオ図).を得て,約8 A分解能のX線回折像を得ることに成功した.しかし,Doudna研のポスドク時代にCas9の生化学5的機能)23と結晶構造)を筆頭著者として発表したのち,スイスで独立したMartin Jinekのグループにより先を越されてしまった.24)Jinekらの決定したS. pyogenes Cas9-sgRNA-2本鎖DNA四者複合体は,筆者らの決定したS. pyogenes Cas9-sgRNA-相補鎖DNA三者複合体と同様の全体構造をとっていた(図8b).筆者らの結果と一致して,四者複合体においてPAMはPIドメインによって認識されていることが明らかになった24)(図8c).NGGPAMの2つのグアニン塩基は,PIドメインの2つのアルギニン残基(Arg1333とArg1335)と塩基特異的な水素結合を形成していた.2014年5月にベルリンで開かれた国際会議においてJinekと話す機会があった.彼らはCas923単体構造の論文)を発表した2月の第1週に四者複合体の構造決定に成功しており,その一週間後に発表され19た筆者らの三者複合体の結晶構造)を見て非常に驚いたとのことだった.Cas9の研究競争は想像以上の厳しさだった.11.Cas9を応用した転写活性化システム最近,筆者らは構造情報に基づきCas9を改変し,新規の転写活性化ツールを開発した.25)Cas9-sgRNA-標的DNA三者複合体においてステムループ1,3の先端はCas9と相互作用している一方,テトラループとステムループ2は溶媒側に露出していることに着目し,MS2タンパク質と結合するRNAアプタマーをテトラループとステムループ2に融合した改変型sgRNAを作製した(図9).この改変型sgRNA,転写活性化因子VP64を融合したdCas9,および,転写活性化因子p65とHSF1を融合したMS2タンパク質を細胞に共発現させることにより,高い効率で標的遺伝子を活性化させることに成功した(図9).この転写活性化システムをSAM(synergisticactivation mediator)と名づけた.さらに,すべてのヒト遺伝子(23,430種のアイソフォーム)を標的とするsgRNAライブラリーを合成し,活性化すると抗がん剤耐性につ102日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)