ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

Cas9の結晶構造(a)Ala10(Asp10)(b)(c)Glu762His983Arg1335Arg1333Asp839Asp986Ala840(His840)図7 NUCローブ.(NUC lobe.)(a)RuvCドメインの構造.(b)HNHドメインの構造.(c)PIドメインの構造.メタルフォールドをもち,活性残基(Asp839,His840)はEndo VIIなどほかのHNHヌクレアーゼと同様の配置をとっていた(図7b).したがって,Cas9のHNHドメインは既知のHNHヌクレアーゼと同様の反応機構により相補鎖DNAを切断することが示唆された.RuvCドメインとHNHドメインは既知のヌクレアーゼと類似した活性部位にくわえ,異なる構造的な特徴をもっていた.例えば,RuvCは二量体を形成し基質DNAを認識するのに対し,Cas9のRuvCドメインは二量体を形成せず,PIドメインやsgRNAとの相互作用に関与する領域をもっていた.PIドメインは新規なα/βフォールドをもつことがわかった(図7c).今回決定した結晶構造には非相補鎖DNA(PAM)は含まれていないが,相補鎖DNAの結合部位からPIドメインはPAM認識にかかわることが示唆された.S. pyogenes Cas9(SpCas9)とS. thermophilus Cas9(StCas9)は59%の配列同一性をもち,sgRNAを交換することができるが,SpCas9はNGGをPAMとして認識するのに対し,StCas9はNGGNGをPAMとして認識する.21)PIドメインがPAM認識にかかわるのかどうかを調べるため,SpCas9のPIドメインをStCas9のPIドメインに置換したSp-StCas9変異体,および,StCas9のPIドメインをSpCas9のPIドメインに置換したSt-SpCas9変異体を作製し,NGG PAM,NGGNG PAMをもつ標的2本鎖DNAに対する切断活性を測定した.その結果,St-SpCas9変異体は,StCas9とは異なり,NGG PAMをもつ標的2本鎖DNAを切断することが明らかになった.したがって,SpCas9のPIドメインはNGG PAMの認識に必要であり,StCas9のPAM特異性を改変するのに十分であることが示唆された.さらに,PIドメインを欠失したSpCas9はDNA切断活性を示さなかったことから,PIドメインはCas9の機能に必須であることが示された.これらの結果から,PIドメインはPAM認識にかかわることが示唆された.非対称単位にはコンフォメーションの異なる2つの三日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)者複合体分子が含まれていた.一方の分子においてHNHドメインとRuvCドメインは一部ディスオーダーしたリンカーにより連結されていたのに対し,もう一方の分子においてはHNHドメインの電子密度は観察されなかった.したがって,HNHドメインはフレキシブルで特定の位置に固定されていないことが示唆された.生化学的な解析から,PAM結合によりCas9は不活性型から活性型へと構造変化することが示唆されている.22)この結果は,今回決定したPAMを含んでいない三者複合体においてHNHドメインが切断部位と離れて存在したことと一致しており,PAM結合によりHNHドメインは相補鎖DNAの切断部位に近づく可能性が考えられた.9.Cas9単体の結晶構造筆者らがCas9-sgRNA-相補鎖DNA三者複合体の結晶構造を発表した1週間前,DoudnaらのグループによりCas9単体の結晶構造が報告された23)(図8a).予想どおり,彼女らはS. pyogenes Cas9を結晶化していた.結晶化条件も筆者らが見いだしていた条件とよく似ていた.Cas9-sgRNA-相補鎖DNA三者複合体と異なり,Cas9単体はRECローブとNUCローブが閉じた構造をとっており,ガイドRNA:標的DNAヘテロ2本鎖を収容する溝をもっていなかった(図8a).さらに,Cas9-RNA-DNA複合体の電子顕微鏡単粒子解析から,ガイド鎖RNAの結合によりCas9は開いた構造へと構造変化することが明らかになった.23)この結果は,筆者らの決定した三者複合体の結晶構造と一致していた.10.Cas9-sgRNA-2本鎖DNA四者複合体の結晶構造Cas9-sgRNA-相補鎖DNA三者複合体の結晶構造と変異体解析から,PAMはPIドメインによって認識されることが示唆されたが,PAM認識機構の詳細は不明だった.そこで,PAM認識機構の解明を目指し,非相補鎖DNA(PAM)を含むCas9-sgRNA-2本鎖DNA四者複合体の構造決定を試みた.試行錯誤の末,四者複合体の結晶101