ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

SHELXLの特徴を知ろう!N-H…Fの水素結合がみられたが,分子Aはさらに分子間でN-H…Oの水素結合もみられた.そこで,このスルホンアミドのHの座標を精密化してみることにした.その際の指定の仕方を表4に示す.「AFIX 2」とは,m=0(何もしない),n=2(座標だけ精密化する)という意味である.その結果,分子Aのアミドの水素の位置はほとんど変わらなかったが,分子BのアミドのHは座標が修正され,分子内でN-H…O水素結合も存在することが判明した(表5).水H 2Oやアミノ基NH 2などの水素を発生させるAFIXコマンドはない.なぜならば,それらの位置を幾何学的に計算することができないからである.このような場合は,基本的にD合成で水素原子の位置を求め,必要に応じてO-HやN-Hなどの結合距離に抑制をかけながら座標を精密化する.5.絶対構造の判定5.1フラック変数X線で物質の絶対配置が決定できるのは,原子による異常散乱のために結晶面の表と裏の反射(つまりフリーデル対)に差が生じるからである(図3).対称心のない結晶構造のとき,試料結晶が反転双晶であると仮定すると,(スケール因子で補正後の)回折X線強度は次式で表される.I model (hkl)=(1-x)|F(hkl)| 2+x|F(-h, -k, -l)| 2(2)ここで,xは試料結晶中の反転構造の領域の体積割合であり,Flack parameter(フラック変数)と呼ばれる.11)原理的には0≦x≦1であり,モデル構造が単一の領域からなり,その絶対構造が正しければx=0,反転すべき構造であればx=1である.もし,x=0.5ならば体積比1:1の反転双晶を意味する.ただし,フラック変数それ自身だけでなく,その標準偏差s(x)が重要である.それは,X線回折データが,どれだけ絶対構造の判別力をもつかを表しているからである.12)図2化合物(I).(Compound(I).)スルホンアミドが分岐水素結合をしている(点線)10)図3フリーデル対と結晶面との関係.(Relationshipbetween the crystal lattice plane and Friedel pair.)表4アミドHの座標のみ精密化する場合のinsファイル入力例.6)(Example of ins file when amido H coordinates are refined.)LATT 1(1は単純格子で対称心ありのとき)SYMM .50-X, .50+Y, .50-Z(空間群P2 1/nのときSYMMとしてこの1行だけ必要)SFAC C H F N O SUNIT 48 52 4 8 12 4DFIX .86 .01 N15 H15…1(途中省略)N15 4 0.557194 0.850859 -0.134500 11.00000 0.04763 0.05156 =0.04953 0.00193 0.01809 0.00597AFIX 2H15 2 0.530899 0.893354 -0.077050 11.00000 -1.20000…2AFIX0(注)1N15-H15距離を0.86(1)A程度に抑制する.2温度因子をU iso(H)=1.2U eq(N)とする.表5スルホンアミドHの座標精密化による水素結合データ(A,°)の改善.10)(Improvement of hydrogen bond data bythe refinement of sulfonamide H atom coordinates.)分子BD-H…AD-HH…AD…AD-H…A解析前N34-H34…F300.862.662.887(6)97解析後N34-H34…F300.86(1)2.20(4)2.893(6)137(6)N34-H34…O380.86(1)2.38(7)2.777(6)109(5)日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)93