ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

大場茂表2水素原子の指定(理想的な位置が一義的に決まる場合).(Setting of H atoms, which are positioned uniquely.)6)コマンド種類指定の内容AFIX 13メチンC-Hsp 3混成の3級炭素に水素を1個つける.X-C-H角は,みな等しくなるようにする.AFIX 23メチレンC-Hsp 3混成の2級炭素に水素を2個つける.X-C-HとY-C-H角が,みな等しくなるようにする.また,H-C-H角はX-C-Y角に呼応させながら,ほぼ四面体角になるようにする.AFIX 43芳香環C-Hsp 2混成の炭素に水素を1個つける.X-C-Y角の外側の二等分線上に水素が導入される.AFIX 93X=CH 2(あるいはX=NH 2+)末端のsp 2混成の炭素(あるいはN+)に水素を2個つける.その際にY-X=CH 2が同一平面になるように計算する.なお,YはXにより近く結合している非水素原子を意味する.AFIX 163アセチレンC-H sp混成の炭素に水素を1個つける.X≡C-H角は180°とする.コマンド種類指定の内容AFIX 33AFIX 123AFIX 137メチル基(ねじれ角は固定)メチル基(乱れ)メチル基(ねじれ角を精密化)a)メチル基の炭素に水素を3個つける.ただし,その炭素C 1に結合している炭素C 2についての一番短い結合軸X-C 2に対して,stagger(ねじれ角X-C 2-C 1-Hの1つが180°)になるようにする.これはC 2のまわりも四面体の幾何構造になっていることを前提としている.もし,そうでないときには(例えばトルエンやアセトニトリルなどの場合),このコマンドは使えない.AFIX 33と似ているが,水素の位置が乱れたメチル基に対応する.ねじれ角が,互いに60°だけ違う2つの配置が混在すると仮定する.メチル基の水素を導入するに際して,これが一番正統な方法である.すなわち,メチル基を正四面体の配置をとる剛体と仮定し,ねじれ角を精密化する.ただし,これは,D合成でメチル基の水素のピークが少しでも見えるくらいのデータでないと,うまく機能しない.AFIX 43アミドN-H X-N-Y角の外側の二等分線上に水素が導入される.b)AFIX 83AFIX 147表3水素原子の指定(取り扱いに注意を要する場合).(Setting of H atoms, which need consideration.)6)水酸基O-H(ねじれ角は固定)水酸基O-H(ねじれ角を精密化)a)水酸基について,飽和炭素と結合しているときは3つのstaggerの配置,芳香環に結合しているときは平面内で2つの配置,について最もよい水素結合を形成するものを選ぶ.水酸基の水素を導入するに際して,これが一番正統な方法である.X-O-Hが四面体角を保つ剛体と仮定し,そのねじれ角を精密化する.a)入力データの中で水素の初期座標が(0,0,0)のとき(あるいはHFIXコマンドで指定したとき),メチル基や水酸基のねじれ角の初期値は,D合成をもとに(水素の位置で電子密度の総和が最大になるように)決める.b)スルホンアミドのN-Hは,座標を精密化したほうがよいときもある(表4参照)z座標の値は,最小二乗法の前に非水素原子の座標から計算されるので,初期値を(0,0,0)としておいても構わない.HFIXコマンドは,水素原子を新たに追加するときに使い,「HFIX mn atomnames」という形式で,原子座標のデータセットの前に入れる.atomnamesのところには,非水素原子の名前を入れる.例えば,C15,C16,C18にメチレンの水素を導入したいときは,「HFIX 23 C15 C16C18」とする.つまり,同じ型で水素を計算させる非水素原子を,まとめて指定するわけである.水素を導入する場合,幾何学的に水素原子の理想的な位置が,ベンゼン環などのように一義的に決まる場合は問題がない(表2).注意を要するのは,先に述べたようにメチル基や水酸基についてである(表3).可能であれば,これらのねじれ角も精密化すべきである.つまり,メチル基では「AFIX 137」,水酸基については「AFIX147」である.ただし,分子の末端でメチル基の温度因子が大きいような場合,水素の電子密度も広がっているであろう.そのようなときは,ねじれ角を精密化するのは(収束せず)無理なので,ねじれ角を合理的な値に固定せざるを得ない.水酸基の場合は,間違いなく結晶内で水素結合を形成しているはずなので,構造精密化後に水素結合データで,水素の位置の妥当性を確認しておく必要がある.なお,TEMPコマンドで測定温度(℃)を入力すると,熱振動を考慮して水素に関する結合距離のdefault値が修正される.4.3水素位置の精密化アミドのN-Hは,通常は窒素原子のsp 2混成を仮定して平面内に導入されるが,ピラミッド型に変形している可能性もある.図2に示す化合物(I)は,結晶中で2分子独立であり(これをA,Bとする),どちらも分子内で92日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)