ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

SHELXLの特徴を知ろう!m j=(g j/G)P j(1)insファイル中の各原子についての情報は,原子名,原子散乱因子の番号,x,y,z,占有因子,そしてU ij(またはU iso)である.SHELXLでは,独特の暗号のような指定方法が使われているので,これに少し慣れる必要がある.一般位置の原子の占有因子は通常「11.00」となっている.これは,最初の1が固定を意味し,実際の値はそれを除いた数,つまり「1.00」である.したがって,占有因子を0.5で固定したいときには,「10.50」とすればよい.FVARの2番目の値をp2とすると,占有因子「21.00」はp 2×1.00を意味し,「-21.00」は(1-p 2)×1.00を意味する.なお,表1で水素原子のU isoが「-1.20」となっているが,これは親原子のU eqの1.2倍にするという指定である.メチル基や水酸基のU iso(H)は通常,「-1.50」に設定される.3.6結合表原子座標をもとに,2つの非水素原子間距離がある程度短い場合に,これらは結合しているとプログラムが判断し「結合表」に登録する.構造が乱れているとき,2つの可能な配向が重なって,それらの原子間の近いところも結合と見なされてしまう.それを回避するために,PARTというコマンドを使う.表1の例に示したように,乱れていない(大部分の)原子を「PART 0」とし,乱れている配向の一方を「PART1」,そしてもう一方を「PART 2」として区切り,原子座標データの最後に「PART 0」と入れる.これで,PART 0と1(または2)の間の原子間の結合は,それらの等価位置も含めて考慮するが,PART 1と2の間は,たとえ原子間距離が短くても結合とはみなさない.このように,乱れた部分の原子座標データをグループ分けすることで,結合表に不必要な情報が混入しなくなる.それによって,乱れた部分にも水素原子をスムーズに導入することができるようになる.特殊位置の周りで結晶溶媒が乱れているような場合,PART番号を負(-1など)にすると,等価位置に存在する原子との距離が近くても結合とみなされなくなる.有機金属錯体などで,もしプログラムが結合とみなしてくれない場合,BINDコマンドでその2原子を指定する(あるいはCONNコマンドで原子の結合半径などを修正する)ことで,結合表に追加することができる.なお,結合表に登録されるのは,通常は非水素原子だけの情報である.ただし,BINDコマンドによって指定された水素は,例外的に結合表に含まれる.逆に余分なところが結合とみなされる場合には,FREEコマンドを使って結合表から除外する.日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)4.水素の導入4.1危ういメチル基メーカー提供の解析ソフトでは,非水素原子を画面上でクリックし,幾何学的配置を指定することで,水素原子を発生させることができる.これは非常に便利であるが,メチル基や水酸基など,水素の位置にねじれ角の自由度がある場合には要注意である.著者がActa Cryst.Sect. Cのco-editorをしていたとき,投稿された構造にメチル基が含まれている場合,その水素を除いてD合成を計算し,電子密度のピークが水素の位置と矛盾していないかを,プログラムPLATON 9)を使って常にチェックしていた.明らかにずれている場合,再計算を指示するわけである.水素原子の位置など,どうでもよいと思うかもしれないが,C-H…pの相互作用やO-H…Oなどの水素結合を議論する上で重要であり,またX線強度データから得られる情報をできるだけ正確に引き出すべきだという考え方が根底にある.ところが,解析ソフトのユーザーにとっては,メチル基や水酸基などの場合に,どのような条件で水素原子の位置が計算されているのかは,ブラックボックスに近い.一方,SHELXLのinsファイルを見ると,水素原子の取り扱いは明白である.以下に,水素原子の指定方法を説明する.4.2水素原子の指定水素を指定するコマンドにはHFIXとAFIXがあり,引数も似ているので最初はわかりにくい.基本的なコマンドはAFIXであり,これは最終的なresファイルにも残る.新たに水素原子を追加する際に,AFIXコマンドを個々の非水素原子に対して追加するのは手間がかかるため,それをプログラムに行わせる便利なコマンドがHFIXである.いったん,AFIXがコマンドリストに組み込まれると,HFIXの指令は不要になるため,resファイルには残らない.なお,AFIXコマンドには,ベンゼン環を正六角形の剛体として取り扱うなどの機能もあるが,ここでは水素原子の取り扱いに関する部分だけを説明する.AFIXコマンドの引数は,mnという2つの整数がつながった形である.nは必ず1桁の数なので,mとnの間にスペースを入れずに入力し,それをプログラムが自動的に解釈する仕組みになっている.mは幾何学的な配置と発生させる水素原子数を指定し,nは(精密化における)水素原子の取り扱いの指定である.n=3は親原子に水素をride onさせることを意味し,n=7のときはridingさせながら,剛体と仮定してねじれ角を精密化する.表1を見るとわかるように,各非水素原子の次の行に「AFIXmn」コマンドで始まり,それに対応する水素原子の座標データが1~3行続き,「AFIX 0」コマンドで閉じる形式となっている.なお,AFIXコマンドを使って水素原子を幾何学的な計算をもとに導入するとき,そのx,y,91