ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

大場茂図1 SHELXプログラムシステムの作者G. M. Sheldrick(左).(Author of the program system SHELX on theleft side.)2014年8月モントリオールIUCr会場にて(右が筆者).プログラムを改良してきた.第2に,プログラムは,「独立を保つこと(no dependencies)」が基本方針として貫かれており,外部のライブラリや環境変数などを(SHELXEを除き)いっさい必要としない.このため,コンピュータの機種が変わっても,スムーズにプログラムを移すことができる.1),7)第3は,柔軟に束縛をかけながら,構造モデルを組み立てて精密化する機能があることである.これは,特に水素原子やディスオーダーを取り扱う際に,威力を発揮する.2.2 SHELXLの汎用性SHELXLは構造精密化のプログラムであり,主に低分子のX線回折データに対して使用されるが,高分子でも(約1.2 Aよりも)高い分解能のデータが得られているときには,精密化に使うことができる.その際は,プログラムがタンパク質を,あたかも「大きな低分子」のごとくに扱う.ただし,タンパク質結晶特有の問題も存在する.そこで,同じ種類の残基に同様の束縛をかける操作が簡便に行えるようにするなど,高分子の構造精密化をサポートするコマンドが多数用意されている.中性子回折データについても精密化できるように,最近NEUTというコマンドが追加された.これにより,中性子散乱因子が導入でき,またHとD原子を非水素原子と同等に扱う(X線回折データに対するときのH原子の特別扱いを止める).1)単結晶の反射データはもちろんのこと,欠面性双晶あるいは疑似欠面性双晶の場合でも,双晶操作(分域間の空間配置を関係付ける変換行列)を入力すれば,分域の割合も含めて精密化が可能である.そして非欠面性双晶のときは,各分域ごとに該当する反射を指数付けして測定したデータがあれば解析できる.3.SHELXLの使い方の概要3.1ファイルの入出力SHELXLの1つの特徴(あるいはほかのプログラムと異なる点)は,原子座標などのデータが計算のコマンドと一体化されて,insファイルとして読み込まれることにある.構造解析のディレクトリの中,つまりPC中でのファイルを表す英数字の部分を○○として,このファイル名を○○.insと表記することにする.直接法などで構造を解いた後に,このinsファイルが自動的につくられる.反射データは○○.hklというファイルである.そして,最小二乗法によって精密化した結果は,○○.resに出力される.実は,ここにトリックがある.このresファイルは名前が違うだけで,内容の形式はinsファイルとまったく同じである.したがって,resファイルのコピーを別名で保存し,そしてファイル名を○○.resから○○.insに変えれば,前の条件のままで次の精密化が続行できる.これを知らないと,大変な目に合う.メーカー提供の構造解析ソフトは,必要に応じて最小二乗法の計算の直前にinsファイルを編集できるようになっているが,ユーザーが前に追加したコマンドなどは保存されていない場合がある.このようなときに,毎回同じようにinsファイルを編集するかわりに,resファイルの内容をinsファイルと入れ換えるだけで済む.同じ内容なのに,なぜ○○.insと○○.resというように,ファイル名を変えるのだろうか.これらのファイルを同じ名前にしておいたほうが,手間がかからずに便利なように思えるかもしれない.これは,もし最小二乗法が発散した場合に,insファイルは無事なのですぐ計算し直せるというメリットがある.また,プログラムのコンセプトとして,必要に応じて構造解析の途中の段階にいつでも戻れるように,データのバックアップをユーザーに義務付けているのである.最小二乗法の計算過程や結果の詳細は,○○.lstというファイルに出力される.解析がうまく進んでいるときには,あまり見る必要もないであろう.しかし,プログラムが計算せずに止まるようなときは,このlstファイルにエラーメッセージが出ているはずである.このほかに,指定すると出力されるファイルとしては,○○.cifと○○.pdbがある.これらは論文投稿あるいは,ケンブリッジ構造データベース(CSD)とタンパク質構造データバンク(PDB)への登録の際にそれぞれ使用する.3.2 insファイルの直接編集メーカー提供の解析ソフトでは,画面上で構造モデルを編集し,精密化の条件を指定できる.スムーズに解析が進めば,そのまま収束してCIFを作成し,完了する場合も多いであろう.しかし,構造に乱れがあると,そうはいかない.D合成のピークの情報だけをもとに,乱れの構造モデルを組み立てるのは不可能に近い.各種の束縛をかけながら,モデル構造を完成させていくことになる.このため,精密化に際してSHELXLに(グラフィックスを通さず)直接指示する必要がおそらく出てくるであろう.その場合は最小二乗法をかける前に,以下のようにinsファイルを編集することで行う.88日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)