ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

日本結晶学会誌57,87-95(2015)SHELXL入門講座(1)SHELXLの特徴を知ろう!慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂Shigeru OHBA: Let’s See the Principal Features of SHELXL !This series of the tutorial articles of SHELXL are mainly for thegeneral users in the X-ray structure analyses of the small molecules. Thefirst?lesson?includes?the?overall?features?of?the?SHELXL, the process of therefinement?using?ins?and?res?files,?and?the?concept?of?the?constraints?and?restraints,?the?generation?and?treatment?of?the?H?atoms?in?the?refinement,?and the determination of the absolute structure.1.はじめに低分子のX線結晶構造解析において,精密化にはプログラムSHELXL 1)が世界中で標準的に使用されている.X線回折計のメーカー提供の構造解析ソフト(例えば,CrystalStructure 2)やAPEX2 3)など)でも,精密化プログラムとして基本的にSHELXLを使っており,利用者はグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を通して間接的にそれを動かしている.ところが複雑なディスオーダーがあると,グラフィックスを通しての指示では対応できず,直接SHELXLのコマンドで指定する必要が出てくる.また,Acta Cryst.への構造論文の投稿の際に,CIFにSHELXLのコマンドリスト(後述するresファイルの内容)を付けることが以前から要求されており,審査意見に対処するためにも,その見方を知る必要がある.SHELXL 97についての詳しいマニュアル4)や,テスト5データが入ったCD付きの解説図書)も出版されているが,初心者にはわかりにくい.また,プログラムの内容が最近更新されたという事情もある.そこで,主に低分子X線構造解析の一般ユーザーを対象として,SHELXLのコンセプト,および使い方の概要を何回かに分けて説明することにした.なお,SHELXLの説明に関して,著者6が最近書いた本)の内容と一部オーバラップしてしまう点,ご了承いただきたい.日本結晶学会編集委員会では,新しい連載企画として「SHELXL入門講座」を開始します.低分子の単結晶構造解析で世界的に使われている,最小二乗法プログラムSHELXLを取り上げ,5回の連載記事として初級者向けに解説します.連載の前半では,プログラムの特徴,乱れの解析,コマンドの使いこなしを題材に,大場茂先生が3号連続してご執筆されます.本連載は,結晶構造解析に必須のプログラムについて,日本語で書かれたよい入門書となることを目指しています.日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)2.プログラムの概要2.1 SHELXプログラムシステムSHELXは,1970年頃に最初のプログラムが書かれ,そしてSHELX76として公開された.7)その後,プログラムが分割されて発展し,構造精密化の部分がSHELXLとなった.従来の直接法などで構造を解く部分は,SHELXSである.また,高分子の構造解法および位相計算用プログラムが,SHELXDとSHELXEであり,それに必要なファイルを作製するのがSHELXCである.また,このほかにSHELXPROやCIFTABおよびSHREDCIFなどの補助的なプログラムもある.そして,最新のプログラムシステムとしては,SHELX2014というような名称で呼ばれている.これに最近,新たにSHELXTが加わった.8)この構造解法のプログラムSHELXTは,例えば単純格子の場合に,結晶構造を仮に空間群P1まで対称性を下げて解き,その結果をもとに空間群まで自動的に判定するという画期的な取り組みである.これは,消滅則があいまいなときなどに威力を発揮すると期待される.SHELXL97までは,デバックなどが数年間にわたり十分に行われてから公開されてきたが,最近はその方針が変更され,逐次新しいバージョンおよびその改訂情報がSHELXのホームページ4)に掲載されるようになった.最近のSHELXLに関する変更や追加された新しい機能については,論文としても発表されている.1)SHELXあるいはSHELXLが30年以上もの間,低分子化合物の構造精密化に広く使われてきて,これからも当分は使われ続けるであろう理由は3つある.第1に,このプログラムの作者G. M. Scheldrick(図1)が構造化学およびX線結晶学の専門家であり,しかも無類のプログラミング好きであることである.彼は,これまでに新しい直接法の理論や精密化の方法などを,次々と取り込んで87