ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

固体電解質探索と結晶構造解析6.次世代の固体電解質探索と結晶学図8 LGPSの骨格構造とリチウムイオン配置.(Theframework structure and lithium ions arrangements ofLGPS.)Li4:4c(z=0.266))とした.GeとP位置は2つの位置があり,Ge1位置(Ge1(P1):4d(z=0.688))は,GeとPが同一位置を占めるが,Ge2位置(Ge2:2b)はPだけが占めている.また硫黄は3つの位置(S1:8g(y=0.188,z=0.409),S2:8g(y=0.295,z=0.095),S3:8g(y=0.696,z=0.795))を占める.この材料の結晶構造を図8に示す.骨格構造は,(Ge 0.5P 0.5)S 4四面体とLiS 6八面体が稜を共有して形成された一次元鎖がPS 4四面体によって連結された構造である.16h位置と8f位置を占めるリチウムイオンがLiS 4四面体を形成している.またそれらのイオンの原子変位パラメータが大きくc軸方向に広がっており,c軸方向のリチウムイオンが拡散していると推察される.さらにMEM解析によるリチウムイオンの核散乱長密度がこのLi1とLi3を含むc軸方向に広がっていることから,イオン導電はc軸方向の一次元拡散であることが裏付けられた.高温においては,Li4位置のリチウムイオンがLi1とLi3の導電経路とつながり,三次元の導電へと変化することが最新のMEM解析により指摘されている.41)このように合成した新規物質が未知構造であったとしても,X線と中性子線のマルチプローブ粉末回折図形から結晶学ソフトウェアを駆使することで構造解析することができ,イオン導電機構の推定まで可能になるのは結晶学の発展によるところが大きく,材料研究はその恩恵をおおいに受けることができた.日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)固体電解質だけでなく機能性材料全般において新規材料を探索している現場において,さまざまな合成条件により多くの新物質を合成されている.合成した試料は,回折測定,物性測定をルーチンワークとして行い,常に物性と構造の関係性を確認している.このLGPS系の固体電解質のように新物質が合成された場合,予想もつかない構造が現れることがある.それも多くの場合,得られる結晶は単結晶ではなく多結晶粉末であり,結晶構造解析は容易ではない.材料研究者の多くは結晶学が専門ではないため,その構造解析のハードルは壁のように高く,研究推進の障壁となる.しかし,構造は物性の発現と直結しており,その材料の機能をさらに引き出すための材料設計には,構造情報が必要不可欠である.つまり,せっかくよい材料を作り出しても,その構造が解けなければ大きな発見も世界との競争の中で開花せず,埋もれていってしまう可能性もある.そのような状況で,粉末回折図形を用いた構造解析の手法として,直接法が比較的容易にできるツールが存在しているということは,材料研究者にとってはきわめて重要である.たとえ直接法により構造が完全に解けないとしても,ほかの手法を借りながら,最終的に構造が解けることが重要だ.そのため材料研究者は,おそらく結晶学を専門とする研究者よりも,構造解析ソフトウェアに期待するものは大きい.材料研究において,粉末構造解析で主に使われるRietveld解析ソフトウェアとして,GSAS-II,42)FullProf,43)RIETAN-FP,Z-Rietveldなど多くのソフトウェアが切磋琢磨しながら,解析の精度や使い勝手を向上していただけているのは,今後の材料研究のうえで非常に頼もしい.しかしRietveld解析は結晶モデルが必要なため,既知構造を解析するには強力なツールであるが,まったくの新規物質に対して無力に近い.今後,多結晶粉末の未知構造を解くために,直接法の開発がさらに進むことを期待したい.高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の構造科学グループでは,Z-Codeという粉末構造解析ソフトウェアの総合パッケージを開発するプロジェクトを進めている.結晶学だけでなく,数学,物理,化学,材料の研究者が集まり,知恵を出し合いながら,どの分野の最先端の研究にも役立ち,どのレベルのユーザにも満足できるよう使い勝手を向上させている.このプロジェクトでは直接法開発も1つの目標である.最近,この直接法開発の最初の1歩とも言える指数付けプログラムconograph 44),45)が富安によって開発され公開された.グラフ理論という手法を用いたこれまでとは違ったアプローチによる指数付けプログラムである.直接法による構造解析技術はEXPO 46)やFOXなど海外が先行してい85