ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

米村雅雄2500020000Intensity / counts150001000050000510152025303540455055606570752 /°図7放射光X線のRietveld解析結果Synchrotron.(XRDRietveld refinement pattern for LGPS.)いくと,最終的にRietveld解析に用いられる結晶構造モデルとなるGeS 4,PS 4の分布が見えてくる.重複した多面体を取り除き,構造モデルとして図6bに示すような多面体分布を考案した.この構造モデルが正しいかどうかを確かめるために,この構造モデルをもとに,放射光X線回折図形をRietveld法により解析することにした.Rietveld解析図形を図7に示す.図7の回折図形では,結晶モデルを用いた計算値と観測値が大変よく一致していることが示されている.このことによりFOXが導き出した(Ge,P)S 4多面体が作る骨格構造が,この粉末結晶の基本構造であると推定した.ここまでの解析により,ステップ4まで解析が進み,リチウムイオンを含まない結晶構造を明らかにすることができた.次のステップは,Liイオンの位置と量を明確にすることである.そのために中性子粉末回折測定を行った.中図6 FOXによるLGPS系の結晶モデル中のGeS 4,PS 4の多面体分布シミュレーション結果(a)と解析モデル(b).(The simulation results(a)of GeS 4, PS 4tetrahedra arrangement by the FOX program and therefinement model(b).)した.正方晶を仮定した格子定数はa=8.6975 A,c=12.6105 Aとなり,単位格子サイズを決定することができた.次に,この単位格子内におけるGe,P,Sが生成する多面体分布を解析することとした.この解析には,プログラムFOX 33)を用いた.FOXは,ab initioシミュレーションを取り込んだ構造解析ソフトウェアで,単位格子中でGeS 4,PS 4などの多面体配置をシミュレートし,その構造因子と回折プロファイルを比較できることが最大の特徴である.このソフトウェアを利用して,放射光X線回折データからリチウムイオンを除く骨格構造を導き出すための解析を行った.FOXは,必ずしも完全な解だけを与えてくれるわけではない.図6aに示すように多面体がほぼ同位置に存在し,わずかに重なってズレた多面体構造を配置した結晶構造モデルを解として与えることもある.しかし,丁寧にそのような構造モデルを見て性子回折実験は,大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置されているBL08TOF型超高分解能中性子粉末回折装置SuperHRPDで行った.回折データは,直径6 mmのバナジウムサンプル管に試料を充填し,背面バンクおよび90度バンクにより測定した.リチウムイオンの位置は,GeS 4,PS 4による骨格構造の隙間を考察すると推測することができた.さらに中性子回折データのフーリエ合成図から位置を決定し初期構造モデルとして骨格構造とした.図6bの結晶モデルに,リチウム位置として3つの位置を追加したモデルを仮定し,Rietveld解析により構造の精密化を行った.その結果,計算値と観測値のよい一致が得られたため,1つの構造モデルとして報告した.30)この論文が発表された後,短時間の間に複数の計算化学的手法による関連論文が発表された.そのうちの1つでAdamsらが,新たなリチウム位置を1つ提案した.40)そのLi位置を取り込んで解析した結果,さらによいフィッティングを行うことができ,Li位置が4つある構造モデルが正しいものと考えている.最終的に,LGPS系固体電解質の構造は,リチウム位置(Li1:16h(x=0.247,y=0.267,z=0.198),Li2:4d(z=0.953),Li3:8f(x=0.248),84日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)