ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

固体電解質探索と結晶構造解析に迫る大きな前進であった.このThio-LISICON系の材料は,1970年代に発見されていたLi 3Nと同程度の導電率であるが,分解電圧が5 V程度と高く,十分にリチウムイオン二次電池の固体電解質として利用可能であるところが,Li 3Nとはまったく異なり,画期的な材料系であった.LGPS系材料発見のきっかけは菅野らが盛んに物質探索していたこのThio-LISICON系材料に始まる.Thio-LISICON系材料はγ-Li 3PO 4型の骨格構造を有したLi 4GeS 4-Li 3PS 4の固溶体のLi 3.25Ge 0.25P 0.75S 4で,最も高い導電率(2.2×10 ?3 S/cm)が得られた.この固溶体から複雑な構造に起因する超格子反射を含む回折図形が得られた.菅野らは,そのような構造で,なぜイオン導電率が急激に向上するのかに注目し,この領域の材料を丁寧にさらに探索した.その結果,最終的に1.2×10 ?2 S/cmのLGPS系という結晶構造が異なる新規相を発見することとなった.30)5.LGPS系の未知結晶構造解析LGPS系固体電解質は,Thio-LISICON系のLi 4GeS 4とLi 3PS 4の固溶体の領域に存在する1つの相である.この固溶相,Li 4?xGe 1?xP xS 4の合成条件を最適化することで現在0.5<x<0.67でのみ,新規の高リチウムイオン導電であるLGPS系を出現させることができる.30)このきわめて高いイオン導電性が,どのような結晶構造から発現し,どのようなイオン導電機構によってイオンが拡散しているのかは,さらに高性能な材料設計のための大変重要な情報となる.LGPS系固体電解質の組成は,高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)測定による化学組成分析で,Li:Ge:P:S=10:1:2:12と解析された.次に結晶構造を明らかにするために,X線回折測定を行った.図5にこの固溶体の端成分のLi 4GeS 4とLi 3PS 4のシミュレー図5 Li 4?xGe 1?xP xS 4系のX線回折測定図形.(X-ray diffractionpatterns for Li 4?xGe 1?xP xS 4 system.)日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)ション回折図形と,LGPS系イオン導電体の回折図形を示す.LGPS系イオン導電体は端成分のどちらの結晶構造とも異なることが明らかとなった.つまり,このLGPS系イオン導電体は,Li 4GeS 4とLi 3PS 4の固溶体であるが,どちらの構造もLGPS系固体電解質の母構造ではなかった.種々の構造データベースとも照合したが,類似の回折図形は存在しておらず,まったく未知の結晶構造であった.この材料の発見当初,LGPS系イオン導電体は単結晶ではなく粉末多結晶でしか得られていなかったため,未知構造を解くために粉末回折データを用いるしかなかった.そのため,この結晶構造を解くために,(1)指数付けプログラムにより単位格子の格子定数と晶系を明確にし,(2)粉末回折図形によるab initio法による構造モデルの大域最適化を行う手法を初めて試すことにした.この未知粉末材料構造解析のためにとった詳細な手順は次のようなものである.Step 1)実験室系X線回折図形および放射光回折図形を測定Step 2)自動指数付けプログラムDICVOL 32)による格子定数と空間群の推定Step 3)未知構造解析ソフトウェアFOX 33)によるGe,P,Sにより構成される多面体配列の最適化による骨格構造を推定Step 4)Rietveld法により,リチウムイオンを除く骨格構造を精密化Step 5)中性子回折データを測定Step 6)フーリエ合成とRietveld法により,リチウムイオンの位置と占有率を精密化Step 7)最終的な結晶構造の確定基礎データとなる放射光X線回折データをSPring-8の透過型粉末回折計BL02B2ビームラインで測定した.試料を直径0.3 mmの石英キャピラリーに真空封入し,大型デバイシェラーカメラ34),35)を用いて測定を行った.測定条件は,200 K,1.0°<2θ<70°の範囲を0.01°ステップとした.放射光X線回折図形の初期構造解析には,プログラムRIETAN-FP 36)を用いた.中性子回折データはJ-PARC/MLFのTOF型高分解能中性子回折計BL08 SuperHRPD 37)を用いて測定した.中性子回折測定条件は,室温,最高分解能バンク(背面バンク)を用い,測定範囲を0.5<d(A)<5とした.結晶構造解析には,Z-Rietveld 38),39)を用いた.ここからは,未知結晶構造解析を行った結果を示す.基本となる結晶格子の情報を得るために,プログラムDICVOL06 32)を用いて指数付けを行い,空間群と格子定数を求めた.いくつかの候補の中から,消滅則:hk0:h+k=2n,hkl:l=2n,00l:l=2n,h00:h=2nの関係性が得られ,この消滅則を満たす空間群として,正方晶の空間群P4 2/nmc(137)がこの回折図形と最も一致83