ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No2

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概要

日本結晶学会誌Vol57No2

米村雅雄図4γ-Li 3PO 4の結晶構Crystal造.(structures ofγ-Li 3PO 4.)い導電率を示す物質を発見したが,そのX線回折図形は,LISICONに酷似していることに気づき,酸化物のLISICONとこの硫化物の物質系の構造が同じであることを発見した.それで,菅野らはこの物質系を酸化物のLISICONに対して,硫化物を示すThioを付け加えてThio-LISICONと命名した.その後の研究において,Li xM 1-yM'yS 4(M=Si,Ge,M'=P,Al,Zn,Ga,Sb,V)が探索された結果,これらの物質がγ-Li 3PO 4型の骨格構造を有し,室温で10 -7~10 -3 S/cmの導電率を示すことを明らかにした.18)さらに村山らは,Li 4-xGe 1-xP xS 4の固溶体で,2.2×10 -3 S/cmという材料を発見した.29)このLi 4-xGe 1-xP xS 4の固溶体が,現在,世界最高のリチウムイオン導電体,LGPS系の発見へとつながった材料である.30)3.新規リチウムイオン導電体の設計指針このように固体電解質としてのイオン導電体は,広く研究されており,その物性と構造には学術的にも産業的にも非常に興味がもたれている.一般的には,結晶を構成する各イオン・原子は格子点上に固定され,それが結晶内を移動することは困難である.しかし,イオン導電体においてはイオンが作る副格子の中を融点よりも低い温度で,イオンが拡散することができる.そのような高速なイオン導電を実現させる材料設計指針としては,次の2点が考えられる.(1)さまざまな陽イオン,陰イオンを用いて部分置換することで,高イオン導電相の構造をより低温において安定化させる.(2)イオン導電に適した骨格構造を有した材料系を選択する.ということが考えられる.上記の(1)の指針によって,銅イオンや銀イオンの導電体が発見されることになり,α-AgIの高温相の構造をより低温においても安定化させ,低温から高いイオン導電性を示すRb 4Cu 16I 7Cl 13やRbAg 4I 5の発見へとつながった.一方,(2)の設計指針によって,リチウムイオンやナトリウムイオンの高イオン導電体が発見されている.例えば,2.3で示したスピネル型リチウム遷移金属塩化物や,2.5のLISICON,さらにそのナトリウム版NASICON(Na Super Ionic CONductor)31)といった材料は,基本となる骨格構造を決定した後,一般的な固体化学の手法を用いることで,イオン導電率を急速に向上させている.その固体化学的手法とは,下記の(a)~(c)である.(a)格子内に,異なる価数のイオンを導入し,欠陥もしくは格子間イオンを導入すること(b)イオン半径の異なるイオンと置換することでイオン拡散経路上のボトルネックを最適化すること(c)高い分極率をもつイオン拡散種もしくは陰イオンによる副格子を作ることここで固溶体の形成について,少し考えてみたい.固溶体を作る理由は,その端成分となる材料の特性や構造を変えるためである.形式電荷が同じイオンで置換すると,結晶学的に等価な位置に異なるイオンが部分的に入れ替わることにより,イオン半径の違いからわずかに歪みを導入することができる.また異なる価数のイオンで置換すると,その結晶学的に等価な位置が置換するとした場合,電荷補償のため,欠陥や格子間のイオンが導入されることになり,電子やホールが導入され材料の特性を大きく変化させることができる.これまで(a)と(b)の材料設計指針による広範囲の物質探索により,多くの材料が発見されている.LISICON系はそのよい例である.これらの材料は,同じ骨格構造を有しながらも広い固溶領域を示し,結晶学的には等価な位置に異なる価数のイオンで置換することができる.その結果として,格子間リチウムやリチウム欠損を導入することができ,イオン導電性を向上させることができた.しかしながら酸化物LISICON系では,イオン導電率が10 ?6 S/cm程度と低い導電性で,銅イオンや銀イオンに比べてかなり低い導電性の材料しか発見されていない.その後,導電性を向上させるために,酸素をより分極率の大きい硫黄に置換したThio-LISICON系材料の探索がなされるようになった.Thio-LISICON系材料は,先述したように,酸化物LISICONと同じ結晶構造であり,広い固溶領域をもつ物質系である.この系に対しても,異なる価数のイオンを置換する手法を適用した結果,LGPS系と呼ばれる世界最高の導電率をもつ物質系が発見されることとなった.4.新規リチウムイオン導電体LGPS系の発見2000年代に入りThio-LISICON系の発見により,イオン導電率が室温で10 ?3 S/cmにまで向上した.これは有機溶媒系の電解液の導電率,10 ?2 S/cmにまで,あと1桁82日本結晶学会誌第57巻第2号(2015)