ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

概要

日本結晶学会誌Vol56No6

クリスタリットホワイトラインWhite-LineX線吸収分光（XAFS）において,内殻励起スペクトルの立ち上がりに見られる急峻なピークのことを指す.当初写真看板で記録していた時代には,このような吸収ピークが白い線として見えることからこの名がついている.特に金属酸化物のK殻吸収端,あるいは局在した遷移金属dバンドや希土類元素fバンドへの遷移スペクトル（始状態のスピン－軌道分裂のために2本のシャープなピークが見られる）がその代表例である. XAFSとほぼ等価な現象である電子エネルギー損失分光（EELS）でもこれに倣った呼び方をすることがある.（名古屋大学エコトピア科学研究所武藤俊介）ビリベルジンBiliverdinヘムオキシゲナーゼの作用により,ヘムが分解された結果生じる緑色の色素.開環テトラピロール化合物の一種.哺乳類では,ビリベルジンは,ビリベルジン還元酵素によりビリルビンへと還元され,グルクロン酸抱合を受けた後に胆汁色素として排泄される.この排泄過程に障害があると,ビリルビンが蓄積し黄疸となる.鳥類ではビリベルジンのまま排泄されるため,便の色が緑色である.植物,紅藻,クリプト藻,シアノバクテリアでは,ビリベルジンは種々のフェレドキシン依存性ビリン還元酵素によって還元され,フィトクロム中で光受容色素として,あるいはフィコビリソーム中で光合成色素として用いられる.また,一部の細菌（緑膿菌や放射線耐性菌など）では,ビリベルジンがバクテリオフィトクロム中の光受容色素として用いられることもある.（久留米大学医学部杉島正一）NADPH-シトクロムP450還元酵素NADPH-Cytochrome P450 ReductaseおよびFADを補酵素として結合する. CPRやCYPORと略されることもある. NADPHからの還元力をヘムタンパク質（シトクロムP450やヘムオキシゲナーゼなど）に受け渡す役割をもつ.シトクロムP450は小胞体とミトコンドリアに存在するが,小胞体膜に結合しているシトクロムP450は本酵素から還元力を受け取り,種々の水酸化反応を行うことにより,ステロイドホルモンや薬物の代謝を行う.したがって,本酵素の欠損はステロイドホルモンの産生不全を引き起こす.特定疾患の1つで,頭蓋骨早期癒合症などの多発奇形を伴うAntley-Bixler症候群の原因遺伝子としても知られている.ヘムオキシゲナーゼも小胞体膜に結合しており,本酵素からヘム分解反応に必要な還元力を受け取る.（久留米大学医学部杉島正一）ゼリーボディー精密化Jelly Body RefinementCCP4のREFMAC5に実装されている精密化手法で,低分解能（3 A以下）のタンパク質構造精密化に用いられる.低分解能の構造精密化では,精密化すべきパラメータ数に対して,反射数が少なくなるので,精密化がオーバーフィットしてしまう傾向にある.そのため, jelly body refinementでは,通常の構造精密化に加える拘束に加えて,同じペプチド鎖内で,ある一定の距離（defaultでは4.2 A）以内にある各原子間距離にも拘束を加える.ターゲット関数は精密化前後の原子間距離の差の二乗の総和である.結果,各精密化サイクルで,原子間距離があまりにも大きく変動することがなくなり,通常の精密化に比べてRとfree Rの差は小さくなる.もし,すべての原子間距離をまったく動かさずに精密化を行うと,それはrigid body refinementと同じであり, jelly body refinementはある程度の構造の剛直さを保ったまま,精密化を行うことになる.（久留米大学医学部杉島正一）ディスクリミネータ塩基Discriminator Baseディスクリミネータ塩基はtRNAに共通なCCA配列の直前に位置する塩基であり,アミノアシルtRNA合成酵素（aaRS）が目的のtRNAを識別（discriminate）する際の目印として用いられる.例えばシステイン（Cys）に対応するtRNAのディスクリミネータ塩基はウリジンで保存されており, CysRSはディスクリミネータ塩基がウリジンのtRNAのみ認識する.（産業技術総合研究所生物プロセス研究部門中村彰良）小胞体膜上に存在する1回膜貫通タンパク質で, FMN日本結晶学会誌第56巻第6号（2014）423